アメリカで「所得再配分論」が不人気なワケ 所得格差が拡大しても、それを容認

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つまり回答者らは、高い所得にすでに慣れている人たちを、あまり再分配の対象にしたいとは思わなかったということだ。その気持ちを表現すると、こんな感じだろうか。「長い間金持ちでいた人は、おカネが多い状態に慣れているから重税を課すことはフェアではない。だが、最近金持ちになったのであれば、税引き後の所得が多いことに慣れていないから、格差解消のためにその人たちの税金を上げてもあまり問題はない」。

別の研究を見てみよう。再分配についての考え方がグループによってどう異なるかを示したのは、ブルッキングス研究所の定期刊行物「ブルッキングス・ペーパーズ・オン・エコノミック・アクティビティ」に掲載されたビベキナン・アショック、イリヤナ・クジエンコ、エボンヤ・ワシントンによる研究だ。

この研究での衝撃的な発見のひとつに、「年代別のグループの中で、再分配への支持から最も遠ざかっているのは、米国人高齢者のグループだ」というものがある。

再分配で他人の取り分が増えるのは困る?

この理解の仕方として、高齢者が全般に保守的になっており、再分配の問題に関しても保守的な考え方を持つようになった、と考えられるかもしれない。しかし、そうではなさそうだ。研究者らが、中絶や銃規制などのイデオロギー的にデリケートな問題への見方を基に調整を行っても、同様の傾向が見られたからだ。

研究者らは次のような解釈を示す。高齢者は他のどのグループよりも、社会的なセーフティネット、特に社会保障制度とメディケア(高齢者向け医療保険制度)から直接的な恩恵を受けている。このように政府からすでに医療サービスを提供されているため、米国の高齢者は、再分配が拡大すれば既得権を奪われると考えるのではないか――。

2つの研究が示すのは、この問題についての考え方がどれほど複雑で、厄介なものでさえあるかということだ。適切な税率や再分配についての見解は、たとえば、金持ちは金持ちであることに慣れていると思うかどうか、またすでに政府から給付金を受けているかどうかなど、一見無関係な要因によって形成されている可能性があるのだ。

すると、問うべきなのは「なぜ米国人は金持ちにもっと課税したいと思わないのか」ではなく、「実際にどんな人が金持ちであると考えられ、金持ちへの課税により恩恵を受けていると見られている人は誰なのか」なのかもしれない。

(執筆:Neil Irwin記者、翻訳:東方雅美)

(c) 2015 New York Times News Service

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