アメリカで「所得再配分論」が不人気なワケ 所得格差が拡大しても、それを容認
これとは対照的に、過去10年間の限界所得税率は35%(ジョージ・W・ブッシュ大統領が2003年に定めた税率)から39.6%(バラク・オバマ大統領が提唱し、2013年に実施された税率)の間にとどまっている。
こうした「より平等な社会を実現するために、政府はどの程度、課税と支出を行って富を再分配すべきか」という問題は、世界中で、また昔からイデオロギー的な対立のもとになってきた。しかし、近年の米国政治ではこの議論も矮小化され、限界税率は35%とすべきか、あるいは39.6%とすべきかという点に絞られている。
このように、格差が拡大する一方で、富の再分配への支持は増えない、あるいは減っているという、一見矛盾した状況が生じている。これをどう解釈するかは、各自のイデオロギー的な考え方によって変わってくる。
保守は「やっと分別がついた」と言う
もし、あなたが保守派なら、次のように考えれば納得できるのではないか。「米国人が富の再分配を求めなくなっているのは、やっと分別を取り戻したからだ。20世紀中盤に実施されていた高率の課税と大幅な社会支出は、大きな経済的コストを生じさせた。一方で、富裕層への税率を下げることで投資や起業が促進され、より速い経済成長が生み出され、最終的には誰もが豊かになる。このことに米国人は気づいたのだ」。
もし、あなたがリベラル派なら、答えは次のようになるだろう。「米国人は保守派の政治家やメディアにだまされて、再分配は忌むべき言葉だと考えるようになった。というのも、再分配がどのように自分たちにメリットがあるかを認識できないからだ。間違った情報をたくさん浴びせられたために、米国人は再分配とは自分以外の人に恩恵をもたらすもので、特に自分とは肌の色が異なる人に提供されるものと考えるようになった」。
しかし、実際には何が背景にあるのか、研究により少しわかってきた。新たに見つかった事実は、保守派やリベラル派の考え方を否定するものではない。しかし、保守派やリベラル派が考えるよりも、再分配についての米国人の考え方が複雑であることを示している。
全米経済研究所の研究で、ジミー・シャリテ、レイモンド・フィスマン、イリヤナ・クジエンコはこの問題に取り組んだ。彼らはオンライン上で実験を行い、無作為抽出の米国人に、「運がよかったために、年収が突然25万ドル増えた人の税率は何%が適切か」と尋ねた。研究者らは2種類の質問を行った。ひとつ目では、収入の増加は今年から始まったとした。2つ目では5年前からとした。
驚いたことに回答者らは、収入が最近増え始めた人のほうを、5年前から収入が増えている人に比べて、1.7ポイント税金を高くすべきだとしたのだ。