アメリカの衰退に忍び寄る「内戦」と「革命」リスク トクヴィルも警告した「最も危険な時期」の到来
不安定な状態はオバマ政権下で起きている。トランプがオバマの生誕地問題などを差別的にあおっていた事実はあるが、大統領候補になる前の影響力は限定的だ。むしろ、フランスの経済学者トマ・ピケティらの「世界格差データベース」が示すように、オバマ時代にこそアメリカの中産階級が崩壊し、格差が激しく拡大した事実などと結びつけて考えられるかもしれない。
オバマが「原因」でトランプが「結果」
本書では、もっと長い潮流もデータとして取り上げられている。アメリカにおける民主主義否定論者は1995年の9%から14%まで上がっているが、これもトランプ登場の2016年までにすでに起きていた現象だ。
「軍による統治」を容認する割合も、1995年のわずか7%から現在(と本書は記述するが、実際は2017年)の18%まで急上昇している。これもほとんどトランプ以前に起きていた。
つまり、アメリカ人の権威主義的思考の高まりも含め、トランプはアメリカの異変の原因なのではなく、むしろ結果なのだということが確認できる。
現状はトクヴィルのいうように「悪しき政府(統治)」が始めた改革が危険な状態をもたらしたと見るのが妥当なのだ。
オバマ・トランプ・バイデン政権は本質的にはひとつながりの改革の動きであるというのは、徐々に常識的理解となりつつある。この5月で1周忌を迎えたアメリカ政治学者、故・中山俊宏慶慶應義塾大学教授の遺稿集『理念の国家がきしむとき:オバマ・トランプ・バイデンとアメリカ』(千倉書房)の論述の基調でもある。
アメリカは21世紀に入って、冷戦後ずっと続いてきた独り勝ちのような状態の大きな矛盾に直面した。独り勝ち状態の底辺には、激しい格差などで人々の不満が鬱積し、権威主義的解決を求める声が高まってきた。これが「悪しき政府(統治)」の状態だ。
その悪しき政府が改革を始めたのがオバマ政権以降なのだが、それはトクヴィル的叡智から見れば、危険極まりない所業となっている公算が大きい。そうした中長期的視野での政治思想的な分析には欠けているが、データをもって改革の危険を教えてくれているのが、ウォルターの著書だといえるだろう。
アメリカが近づいているのは内戦というよりも革命なのかもしれない。
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