アメリカの衰退に忍び寄る「内戦」と「革命」リスク トクヴィルも警告した「最も危険な時期」の到来

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「アノクラシー」は、ある国が民主主義に向かうか、あるいはそれから離反するとき置かれる中間状態を指す概念だ。内戦が発生するのは、この中間的局面だというのが、研究者らの見方だ。それは、トクヴィルのいう、悪しき政府が改革を始めるときに訪れる「最も危険な時期」と一致しよう。現在の最先端の内戦研究は、2世紀前の偉大な思想家の思索をなぞっていることになる。

「ポリティ・インデックス」は、内戦研究者が民主主義、専制、アノクラシーを分類するのに用いる「最も高い有効性を持つ指標」だという。−10(最も専制的)〜+10(最も民主的)の21段階で評価される。+6〜+10点であれば民主主義、−6〜−10であれば、専制国家と見なされる。アノクラシーはその中間に位置する、−5〜+5のスコアである。

この指標を当てはめて計測すると、アメリカは南北戦争期やニクソン辞任で+8に落ち込んだことがあった。2016年大統領選挙を機にまた+8に落ち込み、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件を境に、ついに+5に下降した。つまりアノクラシー状態に入ったという。2016年以前は+10だったのが、5年で5ポイント低下した。内戦が起きる国の多くは、3年以内に6ポイント以上低下するというから、アメリカはかなり危ういところにいる。

ただ、アノクラシーが必然的に内戦をもたらすわけでなく、著者らによればシンガポール、ハンガリーなどはアノクラシー状態で安定しているという評価になる。かつては専制(共産主義体制など)から民主化に向かう途中のアノクラシーで内戦に陥ったが(ユーゴ紛争など)、今日の主たる問題は、民主化した国が専制へ向かう途中のアノクラシーにある。

データでわかる改革の危険性

アメリカに限らない。ドイツ、フランス、英国、さらには北欧諸国も含めて2010年ごろから民主主義は衰退している。

世界的な民主主義研究機関V−Dem研究所(本部・スウェーデン)は、世界の民主主義国家数は2006年に頂点に達したところで民主化潮流は幕を閉じたと判定し、2020年には発足以来はじめて「専制化警報」を発した。世界全体に民主主義の不調が起きているわけだ。1970年代に始まった世界的な民主化の波(「第3の波」)は冷戦終結でさらに勢いづいたが、21世紀に入って逆転し専制化の波が起きていることになる。トランプが出てきたから混乱したというレベルの話ではない。

この大きな変調を考えるには、トクヴィルのような長く、深い視点が必要だろう。冷戦終結後のアメリカ主導となった世界が思想面も含めてどう動いてきたか。そこを考え抜かずには、トランプ現象もウクライナ戦争も本質的には理解はできない。

ウォルターの著作は、そのための興味深いデータを数多く提供してくれる。たとえば、アメリカの白人民族主義者集団の動向をSNS上で追っている暴力過激派問題の専門家によれば、2012〜2016年にフォロワーが600%増えたケースがあるという。これはトランプ登場以前であり、トランプでさらに過激派が殺到する動きが見られるが、2018年には頭打ちになる。

次ページオバマ・トランプ・バイデン政権はひとつながりの改革の動き
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事