アメリカの衰退に忍び寄る「内戦」と「革命」リスク トクヴィルも警告した「最も危険な時期」の到来
もっと対象から距離をとって、長い時間軸で考察してみることもできるのではないか。トクヴィルがフランス革命に対して示した鋭い病理学的診断は、帝国化した革命国家ソ連の終わり(これも一種の革命だ)にも当てはまり、その余波は現在にまで及んでいる。
そのソ連との対決を世界史的命題としていた自由主義革命国家アメリカはソ連崩壊を受けて、むしろ一種の変調をきたした。1990年代からの新自由主義(ネオリベラリズム)と新保守主義(ネオコンサーバティズム)の異様な興隆だ。そのあたりから、いまのアメリカの混迷を考えてみる必要があろう。問題をトランプ出現以降に限り、トランプに混乱の責任をなすりつけ、来年の大統領選挙を論議していては、見失うところが大きい。
「悪しき政府」の改革が招く危機
そうした視点を取るときに格好の補助線を提供する好著が出た。バーバラ・F・ウォルター著『アメリカは内戦に向かうのか』である。原題は「内戦はいかにして始まるか────そしていかにしてそれを止めるか」だ。
著者は内戦の専門家としてさまざまな学者と協力し、世界の内戦に関するデータを収集してきた。その学者グループ「政治的不安定性タスクフォース」(PITF)の目的は、他国の内戦を予測し、アメリカが周到に対応できるようにすることであった。
だが、著者は不安にかられだした。というのも、研究している内戦の兆候は、最近10年間アメリカ国内で認められる状況そのものだったからだ。この本を書き出した動機だ。その意味で、邦語タイトルこそ適切だ。本書には、1990年代の旧ユーゴスラビア紛争など冷戦後世界で起きた内戦の事例も豊富に引用されるが、それらの分析をアメリカに当てはめて、いまのアメリカが内戦(ないし革命)寸前の状況にあると警鐘を鳴らすのが目的となっている。
原著は大統領選挙結果をめぐる連邦議会襲撃事件からちょうど1周年の昨年1月に出版され、ニューヨーク・タイムズだけでもすぐに3人の著名記者がそれぞれのコラムで取り上げるなど、話題をさらった。
著者自身は人々の恐怖心をあおる本と見られるのを恐れていたが、実際それを戒めた記事もあった。ただ、内戦に関する政治学が到達した成果をアメリカに当てはめてみるのは、それなりの意味を持つ。
興味深い点の1つは「アノクラシー」の概念と「ポリティ・インデックス」という指標の応用だ。
後者は(自然科学を装って)何でも数値化・指標化したがるアメリカ型政治学の悪癖のようなところもあるが、耳を傾ける価値はある。
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