東大ジェンダー論教授の「北朝鮮旅行記」 中国と北朝鮮の「性役割分業意識」の違い

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市内観光は、ほぼお決まりのコース。核シェルター兼用なのでやたらに深い地下鉄や、パリのそれよりも少しだけ高い凱旋門、金日成70歳の誕生日に息子の金正日が贈ったという主体思想塔、千里馬の銅像などなど、いわゆる記念碑的建造物を見て回りました。確かに壮大で美しいのですが、北朝鮮経済の疲弊した状況を考えれば、これが壮大な無駄であることは、誰の目にも明らかです。

1960年代頃まで北の経済は、南とそれほど遜色のないものであったと言われています。金正日総書記が後継者として頭角を現してきた1970年代から、こうした記念碑的建造物がいくつも作られ、北の経済は徐々に行き詰まっていったというのが定説です。

しかし、あえて別の面に光を当てれば、金正日の引いた路線は、確かに経済建設という観点から見れば失敗だったのでしょうが、これほどまでに一元化され、国民統合に完璧に「成功」した国を作り上げたという意味では、「よくまぁ、こんな統制と抑圧が徹底できたものだ」と、不思議な気分になりました。

イスラミックステートの勃興などに見られる「無政府状態」の問題を持ち出すまでもなく、国家としての統合に苦労している国は、世界中に山ほどあります。むしろ苦労していない国のほうが少ないと言ってよいでしょう。

それに比べれば北朝鮮は、強烈な政治的統合を維持し、経済的にも、南の韓国と比べるからこそ差が目立ってしまいますが、かろうじて自主独立の経済を守ろうとしています。地上170メートルにそびえる主体思想塔を見上げながら、「この壮大な無駄遣いは、そうした意味を持ったのだろうか」と考えさせられました。

変わったのは、北朝鮮ではなく世界

街中のスローガンも、面白いものがたくさんありました。見た瞬間に笑ってしまったのが「私たちは幸せです!」というもの。「そうですか……」としか言いようがありません。笑った後に考えさせられたのが、「自主性を擁護する世界人民と団結しよう!」「誰と団結できるねん?」と突っ込みたくなったのですが、はたと、そのさらに20年前を思い起こしました。

私が平壌でそのスローガンを見た1995年4月のちょうど20年前、1975年4月30日にサイゴンが陥落し、ベトナム戦争が終わりました。当時、日本の進歩的知識人の多くは、アジアの小国がアメリカを打ち破って自主的な国家建設を始めることを、肯定的にとらえたはずです。「自主独立/自力更生」という、北朝鮮がしきりに唱えているお題目は、40年前なら、日本でも人々の心を躍らせるテーマだったのです。

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