ところがいつの間にか、その「自主独立」は「閉鎖孤立」をしか意味しなくなりました。それはこの間に、外資を積極的に導入した台湾や韓国が、先進国の仲間入りをするまでの経済成長を遂げ、さらには民主化まで成し遂げたからです。中国が経済特区を利用して、飛躍的な経済発展を遂げたことも付け加えるべきでしょう。
逆に言うと、この40年間、北朝鮮の主張は一貫して変わっておらず、変わったのは世界の側だということになります。北朝鮮ではラジオさえもチューニングがボタン式で、外国の放送が聴けないようになっていました。このように外部の情報を遮断している北朝鮮社会の中から見ると、自国の立場が変なものには見えないのです。
変わっていったのは世界のほうで、自国は一貫しているからです。「そこで暮らす人間にとっては、北朝鮮は必ずしも変な社会ではない」。これは現地に行って初めて実感できたという意味で、貴重な体験でした。まさに「百聞は一見にしかず」です。
性役割分担意識の強い北朝鮮、弱い中国
現在では、朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」も、朝鮮中央通信のニュースも、ウェブサイトで簡単に見ることができます。YouTubeには英語の公式チャンネルもあります。
私は『朝鮮女性』という北朝鮮の雑誌を定期購読しており、北朝鮮から毎月、直接研究室に送られてきます。他方で当然ですが、北朝鮮の国内から国外のサイトにアクセスすることは、ごく一部の層を除きできません。そこで、手元にある情報に基づいて、北朝鮮のジェンダーに関して、少しだけ紹介してみましょう。
「平壌消息(ニュース)」というウェブサイトに、「主婦に人気の太陽温水加熱器」という動画がありました。屋根にソーラーパネルのような形の水を通すパネルを置いて水を加熱するという、エネルギー難の北朝鮮にとっては注目の設備のようです。
私が面白いと思ったのは、これが「主婦に人気の」になる点です。同じ社会主義でも、中国ではこういうタイトルにはなりません。朝鮮半島に深く根付いた儒教規範(李氏朝鮮時代を経て、儒教は本家の中国より、朝鮮半島で強く受容されるようになりました)から性役割分担意識が今も根強い北朝鮮に対し、中国では結婚しても女性が働くのは当たり前のことで、男性が料理をするのも当たり前です。したがって中国では、温水加熱器が「主婦に人気」とは決してならないのです。
北朝鮮では今でも、結婚などを機に女性が仕事をやめることは珍しくないとされており、今まで何度か開かれてきた「全国オモニ(母親)大会」では、子育ては母親の役割であることが強調されてきました。これも中国ではありえません。
この中国と北朝鮮の違いは、台湾が韓国よりも女性の社会進出に関して積極的な社会であることとも通底する現象であるというのが、私が昔書いた本の内容の一部です(『東アジアの家父長制』勁草書房)。
しかも、北朝鮮との国境地帯に多く住む中国の朝鮮族では、やはり男性があまり家事をしないという調査があり、ここからも朝鮮半島の儒教規範が大きな影響力を持っていることが推測されます。
今、日本から北朝鮮に行こうとすると、通常は中国経由になります。次は北京発平壌行きの寝台列車に乗って、もう一度自分の目で金正恩時代の北朝鮮を見てみたいと思っているのですが……。
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