『高速道路家族』に見る映画で描かれるSAの意味 高速道路の専門家による“高速の映画"の考察

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そして、「サービスエリアで出会う人はそのときだけで、誰も深い関係は結ばないこと、人から傷つけられたことがある高速道路の家族には生活の拠点であり、資本主義社会から押し出されることもない最後の砦」であることなど、この映画では現代社会の光と闇がサービスエリアで交錯していることがキーポイントになっていることが伝わってくる。

高速道路やSAが持つ意味を考えながら

言うまでもなく、映画で高速道路が描かれるケースは少なくない。

村上春樹の小説が原作で第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』では、ドライブをテーマとしているだけあって、広島の都市高速や山陽道の小谷SAが画面に登場しているし、2016年公開で監督賞など第89回アカデミー賞6部門を受賞した『ラ・ラ・ランド』は、ロサンゼルスのハイウェイの大渋滞から始まる。

ロサンゼルスのハイウェイ(写真: Gabriele Maltinti Photography / PIXTA)

この大渋滞の中、1人の女性がクルマから降りて歌い始めると、他のすべてのクルマから人が屋根にのぼり歌とダンスを始めるという印象的なオープニングは、今も語り継がれているものだ。

また、古代の高速道路ともいうべきローマ街道で最も重要なアッピア街道も、映画では描かれている。

皇帝ネロを主人公にしたスペクタクル映画『クォ・ヴァディス』(アメリカ 1951年)では、ロバート・テイラー演じるヴィニシウス将軍が遠征を終えてローマに凱旋するシーンが冒頭に登場するが、彼がローマに入場するために戻ってきたのがこのアッピア街道であった。

話が『高速道路家族』からはかなり逸れたが、この映画は単にタイトルに高速道路という名称がついているだけではなく、高速道路やSAが持つ社会的な意味や役割を考えさせてくれる佳品である。

公開されている映画館は多くないし、いつまで映画館で見られるかわからないが、今は公開終了後も見られる選択肢が用意されているので、もし機会があれば触れてみるのもよいかもしれない。

佐滝 剛弘 城西国際大学教授

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さたき よしひろ / Yoshihiro Sataki

1960年愛知県生まれ。東京大学教養学部教養学科(人文地理)卒業。NHK勤務を経て、NPO産業観光学習館専務理事、京都光華女子大学キャリア形成学部教授、リベラルアーツ・ジャーナリスト。『旅する前の「世界遺産」』(文春新書)、『郵便局を訪ねて1万局』(光文社新書)、『日本のシルクロード――富岡製糸場と絹産業遺産群』(中公新書ラクレ)など。2019年7月に『観光公害』(祥伝社新書)を上梓。

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