「円高はやってこない」FRBが利上げをやめても 下がり続ける購買力、もはや逃避先でもない

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今後、FRBやECBが利上げの手を止め、現状維持を基本路線とした時、金融市場全体のボラティリティは低下するだろう。その時に何が起きるか。

流動性が高く、金利の低位安定が約束されている通貨を原資(調達通貨)として高金利通貨を買い、そのポジションを維持することで金利差を得るキャリー取引が奏功しやすくなるのではないか。ちょうど2006~2007年、円安バブルと言われた時代に流行った円キャリー取引の再来である。

円キャリー取引は再来するか

今回も調達通貨として最も選ばれやすいのは、言うまでもなく円だろう(もっとも、バブルと形容されるほど日本経済の過熱感が強まるとは思えないが)。

そうした相場こそ昨年来、筆者が強調してきたシナリオであるし、2022年12月の「2023年の『ドル円相場シナリオ』はどうなるのか」でもはっきり議論した通りである。今のところ、その想定に沿って、実勢相場は動いているように思える。

仮に、FRBが早期利下げに転じた場合、そうした円キャリー取引主導の円安という相場現象は期待できないだろうが、FRBが利下げしたからといって、上述したような日本の膨大な貿易赤字がなくなるわけではない。

金利と需給の双方から見て、円高が確信できるような状況が年内に実現するのは難しいのではないかと引き続き考えている。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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