隈研吾 建築家・東京大学教授--日本の職人の技術を世界が渇望している
日本の建築家は世界でどの程度競争力がありますか?
ちょうど僕らの世代の建築家から、主な活動場所が国外に移ったが、これはほんの始まりにすぎない。1960年ごろにイタリアのデザインが世界を席巻したのと同じように、建築における日本人のデザイン能力は、世界で大きな存在感を示す可能性を持っている。それを現実のものにできるかは、今の20代、30代に懸かっている。
そもそも建築は日本人が得意な分野だと思う。言葉を使ってロジカルに組み立てていくのではなく、自分の五感を使って物の形を研ぎ澄ましていくということが、島国の日本人には向いている。しかも過去60年間は公共建築物を造る機会がたくさんあった。このトレーニング効果は大きいと思う。でも、その能力を使う場所が日本にはなくなってきた。だから、若い人には「日本の中だけで仕事をして生きていけると思うなよ」と言い続けている。
日本のデザインは世界で非常に高いニーズがある。海外の人も「日本の建築業者が造るものは全然違う」と感じている。それは単に工期を守るとか、予算を守るという仕事上の誠実さだけではなく、仕事のクオリティ。日本の建設業者はもっと国外へ出て行けるはずだが、お金を取りっぱぐれることや、建築工事のミスに対する訴訟を恐れて、これまで世界に出て行かなかった。
世界で活躍する「和僑」が生まれる
今のところ、建築家がいちばん海外で活躍しているが、それは図面という世界共通言語があるから。現在、世界から渇望されているのは、日本の職人さん。同じ工事をしても、日本と海外の職人の間には、信じられないようなレベル差がある。
かつて、戦国時代に築城ブームがあった後、築城の技術者は東南アジアにずいぶん出て行った。今の職人さんたちもぜひ職人軍団として世界に出て行ってほしい。