体内時計を無視するから、日本人はがんになる 「時計遺伝子」の力を知っていますか

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体内時計を整えるためには、「腹時計」を正常に働かせることが必要です。「腹時計」とは、おなかのすき具合から時刻の見当をつけることです。時計がなかった時代には、天体の動きとともに、ヒトは腹時計で時間を感じていました。

テキサス大学の柳沢正史教授は、2006年に腹時計の存在をマウスを使った実験によって明らかにしました。柳沢教授は、腹時計が脳の視床下部の一部である「視床下部背内側核」(ししょうかぶはいないそくかく)という部位にあることを発見しています。

それに対して、体内時計は、腹時計とは別の部位、脳内の「視交叉上核」(しこうさじょうかく)という部位にあります。これは、眼球と視神経により結ばれていて、太陽光の刺激によってリズムを刻んでいます。

腹時計は先ほど述べたように体内時計とは別の部位にあり、視交叉上核に依存していません。腸の動きに連動しているのです。空腹と食事のリズムから時間を刻んでいます。腹時計の力はとても強く、これが狂うと体内時計まで乱れてしまうことがわかっています。

老化を防ぐ鍵は、腸の時間割にあった

人の免疫力には腸が70%、心が30%、それぞれ関係していることがわかっています。体内時計と連動している「腸のリズム」に合わせて生活することで、病気にならないし、老いも遠ざけることになるのです。老化を防ぐためにも、まずは「腸の時間」の進み方を知り、腸が喜ぶ生活習慣を心がけることが必要です。

研究してみると、健康寿命を左右しているのが、「朝の腸」。病気に強い体を作るのが「夜の腸」ということがわかりました。「朝の腸」や「夜の腸」をそれぞれ活発に働かせるようにするためには、「腸の時間割」をよく知ることです。

最近、『病気を防ぐ「腸」の時間割――老化は夜つくられる』(SBクリエイティブ)という本を出版いたしました。今、日本では「健康に長生きする」よりさらに奥深く、「若々しく長生きする」というアンチエイジング(抗老化)への関心が増大しています。アンチエイジングを目指すなら、体内時計をまず若返らせることです。体内時計は「腹時計」と連動していますので、腸の機能を高めることです。

体内時計の仕組みを知って、がんなどの病気にならない体や老化を予防する習慣を身につけていただきたいと思います。

藤田 紘一郎 東京医科歯科大学名誉教授

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ふじた こういちろう

1939年、旧満州に生まれる。東京医科歯科大学医学部を卒業し、東京大学大学院医学系研究科博士課程を修了。医学博士。アメリカ・テキサス大学にてリサーチフェローののち、金沢医科大学教授、長崎大学教授、東京医科歯科大学大学院教授を経て、現職。専門は寄生虫学と熱帯医学、感染免疫学。腸内細菌の研究の権威。1983年、寄生虫体内のアレルゲン発見で、小泉賞を受賞。2000年、ヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会・社会文化功労賞および国際文化栄誉賞を受賞。
2021年5月14日、藤田紘一郎さんは逝去されました。ご逝去の報に接し、心から哀悼の意を捧げます。『血液型と免疫力』(宝島社新書)は生前に執筆された著書です。

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