139の大型案件を調べてわかった海外M&Aの成否 日本企業が「万全を期して」実施した戦略の帰結

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ここでいう成功とは、買収後、当該セグメントで少なくとも2年に1度のペースで営業最高益を更新した案件を指します。

成功案件のうちのアドバンテスト、大日本住友製薬、アステラス製薬、積水化学工業、リクルート、ホシザキ、テルモ、JTについては『海外M&A 新結合の経営戦略』で概要を紹介しています。

買収で世界一となった企業もある

成功を実現した企業の中には、ダイキン工業やグローリー、DMG森精機など、まさに買収で世界一を実現した企業もあります。グローリーについては、別の記事でも紹介しました。

一方で、失敗とは、買収後に事業の売却・撤退、または買収企業が債務超過、破綻に陥った案件を指します。

買収年が2011年の案件で見れば、買収後に事業売却に至った事例として、みらかホールディングス、東芝、LIXIL、KDDIのケースがあります。

同じく2011年の案件で、買収後にのれん減損に至った事例として、タカラトミー、東洋製罐、第一三共、日清紡のケースがありました。

日本企業はこれまで40年近く、失敗を重ねながらも海外M&Aに果敢に挑戦してきました。いまだ失敗は後を絶ちませんが、ようやく、買収で加速度的な利益成長を実現する企業が出現してきました。

日本を代表する製造業企業のマネジメントや、買収した事業の経営を担う方々から直接お話をうかがうことで見えてきたのは、日本企業が海外M&Aによって、強靭さとしなやかさを備えてきたということです。

過去の日本企業による海外M&Aが示すのは、買収後、悪い方向に走り出すと、想定を超える損失を被ることです。

獲得した事業を、買収前の小さな戦略や能力に合わせるようなことをしては成功しません。逆に、成功した企業に共通するのは、買収後、外部環境に応じて自らの経営を進化させてきたことです。

その経営の進化を、私は「新結合の経営戦略」と位置づけました。そして、買収後の経営で最前線に立つ方々が直面した課題とその克服法を共有して、相互に学ぶ機会を作ることは経営の研究に携わる者の役目ではないかと考えました。

日本企業は、今こそ成功企業の経営に学び、それに続くことで世界的な業界再編を主導してほしいと考えています。

松本 茂 京都大学経営管理大学院特命教授、城西国際大学大学院教授

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まつもと しげる / Shigeru Matsumoto

神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。PwCディレクター、英HSBC投資銀行本部長、同志社大学大学院准教授などを経て、現職。20年にわたり、M&Aアドバイザーとして、米国や中国など20カ国50を超える海外企業とのクロスボーダー案件に助言。著書に『海外企業買収 失敗の本質 戦略的アプローチ』(東洋経済新報社、2014年、第9回M&Aフォーラム正賞受賞)。2020年、京都大学経営管理大学院より優秀教育賞受賞。

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