10歳から歌舞伎町の「トー横少女」が帰宅できぬ訳 父からの虐待を、愛情として受け止めていた
「あ、なるほど。でも夜になると(ゲームセンターは)閉まっちゃいますよね」
「夜は、雨でも外にいる子もいるし、ホテルに帰る子もいる」
濡れてしまうのが気になるのか、モカさんは前髪のあたりを手でカバーしながら話を続ける。
「ホテルにも10人くらい集まってるんで、別に中にいようと外にいようと楽しさは変わらないんですよね」
そう言ってモカさんは笑う。歩いていると「CUSTOMA」というアルファベットが並ぶ看板が見えた。ホテル代わりに使っているネットカフェのことをモカさんが「カスタマ」と呼んでいたことを思い出す。
「あ、ひょっとしてあれですかカスタマって」
「そうです。カスタマっていっぱいあるんですよ。これは『グラン』」
彼女が教えてくれたように、店舗の正面に「GRAN CUSTOMA」という文字が照明によって明るく輝いている。あとで調べてみたところ「カスタマカフェ」は東京、埼玉、千葉のターミナル駅を中心に店舗を展開する漫画喫茶・インターネットカフェで、歌舞伎町の「GRAN CUSTOMA」には、複数人で泊まることができる広めの個室、シャワー、ランドリーなどがある。トー横キッズの寝泊まりには確かに便利な施設だ。
モカさんは、トー横界隈のことを何も知らない僕の質問に、嫌な素振りを見せずににこにこと付き合ってくれた。僕らは近場にあったビルのひさしの下で雨宿りしながら取材を続けた。
10歳から歌舞伎町で過ごす
僕は、彼女と会った直後に交わした会話を思い返した。両親がいる家に近寄らず「いちばん最後に帰ったのは2年前」だとモカさんは話していた。
歌舞伎町で10歳から現在まで約5年間もの期間を過ごし、直近2年間は一度も家に帰っていないと語った彼女。「さすがにご両親から連絡があるのでは?」と聞くと、モカさんは食い気味に「ないです」と答えた。その瞬間だけ、彼女の目が少しだけ曇って見えた。取材中にどんな質問を投げかけても、飄々と、淡々と、時にはにこやかに答えてくれた彼女が、このときだけは胸の内に渦巻く激しい感情を露わにしたように僕には思えた。
両親からの連絡は「ない」と言い切ったモカさんは少しの沈黙のあと、こうつぶやいた。
「どうでもいいと思う……」
これを聞いて僕は、両親が自分の娘のことをどうでもいいと思っている、という嘆きの言葉だと理解したのだが、もしかしたら彼女が両親のことを「どうでもいい」と突き放していたのかもしれない。
現在の両親はモカさんに対して無関心だという。
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