10歳から歌舞伎町の「トー横少女」が帰宅できぬ訳 父からの虐待を、愛情として受け止めていた
モカさんは精神科病院に5カ月間ほど入院した経験がある。僕が話を聞いたのが2月で、前年の年末まで入院していたという。つまり、両親のもとに帰らずにいるこの2年の間に起きた出来事だった。当然、両親にもモカさんの入院を知らせる連絡が入ることになったが、そのときの両親の振る舞いをモカさんはこんなふうにばっさりと切り捨てた。
「心配なフリだけして、迎えに行くフリだけして、終わり」
両親は病院の職員に対して世間体を気にして「心配なフリ、迎えに行くフリ」をしているのだと彼女は淡々と話した。そうした大人に対する諦めや、ある種達観したような観察力は、彼女が親から虐待を受けていたことと無関係ではないように僕は感じる。
こんな話を聞いたことがある。
虐待を受けながら育つ子どもは、自分の身を守ろうとする防衛本能によって「どうすれば愛されるのか? 愛してもらえるのか?」ということに注意を向けるようになる。その結果、周囲の大人に対する観察力が異常に発達するという。
衝撃的だった、彼女の様子
さっき出会ったばかりの間柄にすぎない僕の質問に対して、複雑すぎる家庭環境や入院歴といったプライベートな事情をモカさんは語ってくれた。彼女は達観した観察力によって、僕のことを「危ない大人ではない」と判断してくれたのかもしれない。僕のほうも、モカさんの過剰に赤く塗られたアイシャドウに慣れてきた気がした。
続けて、モカさんは実の父親との間に起きた出来事を僕に打ち明けてくれた。
「実の父親から性的虐待を受けていたんです」
モカさんの実父は、母親に性的虐待を、モカさんに対しては殴る蹴るなどの暴力を振るっていたという。そんな生活が続いたあと、両親は離婚。父親に引き取られたモカさんは、これまでの殴る蹴るの暴行に加えて、性的虐待も受けるようになった。父親からの性的虐待という過去を、取材しながらある程度は想定していたので、モカさんの告白した内容を僕は静かに受け止めた。だが、僕にとって衝撃的だったのは、彼女がつらそうな様子をほぼ見せなかったことだ。
「普通ではないと思ってたけど、これがお父さんから私への本当の愛情なんだなと思った」
モカさんは、まるで父親と遊園地に行った記憶を思い出すかのように、軽やかな表情でそう語った。幼少期から殴る蹴るなどの虐待を受けて育った彼女にとって、唯一父親が“優しく”接してくれた時間だったのではないだろうか。
だからこそ、客観的に見れば性的虐待でしかない出来事が、彼女にとって“父親との楽しかった思い出”に変換されている。そんなふうに思考を巡らせると同時に、僕は心の底から違和感を覚えずにはいられなかった。父親からの性的虐待について話すモカさんの顔には、中学生らしいあどけない表情が浮かんでいたからだ。
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