10歳から歌舞伎町の「トー横少女」が帰宅できぬ訳 父からの虐待を、愛情として受け止めていた

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僕は驚いた。自分の知る限り、どの世界も長くいる者は敬われるのが自然な風潮だろう。しかし、トー横界隈にはそんなものはないようだった。近年「マウント」という言葉をよく耳にする。今の若い人たちはマウントにとくに敏感という印象を受ける。年配者であっても、人はマウントを取ろうと機会をうかがい、誰かにマウントを取られることを恐れ、マウントを取ろうとする者は敵と見なされるケースも多い。トー横界隈も例外ではなく、あいつはマウントを取ろうとしている、と思われるだけで周囲から敵意を向けられる対象になりかねない。それを恐れてモカさんは、自分が数年前から歌舞伎町に通っていることを周りには隠していた。

反対に、最近になってトー横にやって来る子に対して、モカさんは自分との違いを感じているという。新しい子たちのことをモカさんは「新規」と呼んだ。

「TikTokとかで動画が上がってるから、トー横にあこがれてる子が増えちゃって。家庭環境が悪いわけでもないし、本人にとってはつらいんだろうけど、食べるご飯があって帰る家があるのに『死にたい』って言ってる子たちも最近は増えてきました」

さらに「新規同士でマウントを取り合うケンカもある」とモカさんは教えてくれた。

夜はホテルかカスタマ

では、現在の彼女は歌舞伎町のトー横界隈でどのように生活しているのか。

僕が「今はどこに行こうとしてたんですか?」と尋ねると、「トー横に人がいなかったら広場のほうに行こうかなーと思って」と屈託のないしゃべり方で応じるモカさん。トー横の路地の一角に着くと、彼女はパーカーの袖から小さな手の先っぽだけを出して両腕を広げ、「ここが、いつもみんないる場所」と教えてくれた。そのときには仲間たちの姿は見当たらない様子だったが、モカさんは「あ、夜はいっぱいいますよ」と付け加える。

彼女によると、トー横界隈には同じような境遇の仲間が集まっており、夜はホテルの1室を割り勘で借りて、寝泊まりに使っているという。ネットで予約した部屋に複数の若者たちが出入りする形だ。支払いは自動精算機という場合も多いが、ホテルのフロントなどに出向く場合は、成人している仲間がやってくれる。ホテルだけでなくネットカフェの狭いブースを複数人で使い回すこともあるらしい。

ちなみに、一般的なホテルやビジネスホテルの場合、1室を複数人で使うのは利用規約違反になる。もちろん、1室2名といった宿泊プランどおりの適切な使用であれば問題ないのだが、ホテル側に無断で複数人が部屋に出入りして寝泊まりするというのは、宿泊者名簿の記載を宿泊施設に義務づけている旅館業法、1部屋当たりの利用人数を制限する消防法などに触れる法令違反となる行為だ。2022年4月には警視庁立ち会いのもと、トー横界隈近隣のホテルに新宿区の立ち入り検査が入ったこともある。

モカさんから話を聞いているうちに、少しだけ雨がパラついてきた。降り始めたばかりの小雨とはいえ、冬の雨は冷たい。僕はモカさんといっしょに雨をしのげる場所へ移動することにした。トー横の路地を歩きながら、世間話をするように取材を続ける。

「トー横キッズの人たちって雨が降り出したらどこに移動するんですか?」

「雨が降ったら……ホテルに戻るか、ドンキとか、ゲーセンとか」

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