アメリカが「建国の理想」ゆえに自壊する理由 自由民主主義の維持に潜む恐怖のパラドックス
とまれ、内戦の危機がそこまで切実だとすれば、どうにか阻止できないかと思うのが人情。
最後の第8章では、処方箋の提示が試みられます。
「没落した白人の絶望をやわらげ、民主主義の屋台骨を修復するには何をすべきか」という話。
ところがここで、本書は深刻な矛盾に陥るのです。
アメリカの民主主義の理念が、いかにすばらしいかを強調すべく、バーバラ・ウォルターは自分の身の上を語る。
じつは彼女自身、両親は移民。
父はバイエルン生まれで、母はスイス生まれとか。
夫のゾリもカナダ生まれのうえ、父親はハンガリーからの移民だったそうです。
そして、こう続ける。
「アメリカは私たち家族に、夢を追いかける機会を与えてくれた。ありのままの自分でいる権利を与えてくれたのだ。ここなら安全に暮らせるし、思いのままに生きられるという確信のもと、豊かさをめざす自由を」(221ページ、日本語版の該当箇所279〜280ページ)
本の最後でもウォルターは、今こそ「多をもって一となす」(=世界中から人々が集まって、平和で繁栄する社会をつくる)という建国のモットーを真に実現すべきだと述べました。
しかし移民の増加こそ、学歴の低い白人を没落へと追いやることで、暴力的な蜂起に向かわせる大きな要因ではなかったか?
「価値ある自壊」をきたした本
国境を越えた大規模なヒトの移動が、社会の安定を突き崩し、内戦を引き起こした事例は、本書の前半部でも繰り返し紹介されています。
建国のモットーで何をうたおうと、アメリカだけは例外などということがありうるでしょうか。
崇高な建国の理想を持ち、それを実践しようと努めたからこそ、アメリカは自壊の危機に瀕している。
このパラドックスに気づかないまま「多をもって一をなす」を強化したら最後、いったいどういうことになるか?
そうです。
本書が提示する「内戦阻止の処方箋」は、かえって内戦をあおりかねない性格を持っているのです!
ウォルター自身、これに気づいていた可能性が高い。
次のような予防線を張っているからです。
「われわれは(注:移民や難民まで含めた)あらゆる種類の人々を必要としている。移民を阻止しようとする国は、ゆっくりと死んでゆくほかはない。人口が減少してゆくためだ」(223ページ、日本語版の該当箇所282ページ)
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