アメリカが「建国の理想」ゆえに自壊する理由 自由民主主義の維持に潜む恐怖のパラドックス
東アジア、ラテンアメリカ、および南欧・東欧などでも、このころから内戦の新しい波が生じました。1990年代はじめ、世界における内戦の数は近代史上、最多になったと言われるほど。
ここ数年、事態はさらに悪化しています。2019年、内戦の数はそれまでの記録を更新しました。おまけにこれは、自由民主主義を否定し、権威主義をめざす風潮の台頭まで伴っている。「自由民主主義の総本山」と長らく見なされてきたアメリカすら、今や南北戦争以来の内戦に陥るのではないかと危惧されているのです。
2020年代、世界はデヴィッド・ボウイの予言に追いついたと評さねばなりません。戦後日本は、アメリカとの協調、ないし従属を、国のあり方の根本に据えてきたのですから、これはわが国にとっても重大な意味合いを持ちます。
かつて「アメリカがくしゃみをすると日本が風邪を引く」というフレーズがありましたが、アメリカが内乱のあげく機能不全に陥ったら、日本(人)はアイデンティティーの崩壊をきたすのではないでしょうか。
「不完全民主主義」の危険性
内戦はなぜ起きるのか?
アメリカが「第2の南北戦争」に突入するとしたら、どのような形を取るのか?
民主主義の没落を防ぐため、われわれにできることは何か?
上記のテーマに正面から取り組んだのが、政治学者バーバラ・F・ウォルターの著書『アメリカは内戦に向かうのか』です。
2022年はじめ、原著が刊行されたときから内容に注目した私は、同年秋に配信したオンライン講座『佐藤健志の2025ニッポン終焉 2025年、日本が迎える巨大な分岐点』(経営科学出版)において、詳しく紹介したうえで分析を加えました。その際、本に登場する重要な概念「ethnic entrepreneurs」「violent conflict entrepreneurs」を、「民族主義仕掛人」「暴力対決仕掛人」と訳しましたが、これは今回の日本語版でも踏襲されています。
原著と比較した場合、訳文にはいろいろ気になるところも多いものの、この点は脇に置いて、ウォルターの議論を取り上げてゆきましょう。以下、引用は基本的に英文より行います。
邦題こそ『アメリカは内戦に向かうのか』ですが、原著の題名は『How Civil Wars Start; and How to Stop Them』(内戦はどう始まるか、そして阻止するにはどうすべきか)。
言い換えれば、アメリカの状況だけを論じたものではありません。全8章のうち、第1章から第5章までは、内戦発生にいたるメカニズムを、さまざまな国の例を挙げつつ分析しています。
ポイントは以下のとおり。
民主主義であれ、権威主義であれ、政治体制が安定している国では、内戦はまず起こりません。
前者の場合、そもそも蜂起の必要がなく、後者の場合、蜂起しても制圧されるのがオチだからです。
内戦が起こりやすいのは、両者の中間にある「アノクラシー」の国々。
日本語版では訳語が用意されていないようですが、私の講座では「不完全民主主義」としました。
読んで字のごとく、専制支配が確立されているわけではないが、さりとて民主主義が盤石というわけでもない状態。
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