欧州で露呈、鉄道車両「メーカー主導開発」の限界 納期遅れや問題多発、鉄道会社と共同に回帰?
FV-Dostoの特徴の1つは「WAKO」と称するロール補正技術、つまり曲線通過時に車体を傾斜させるアクティブサスペンションを搭載する点で、非搭載車両と比較して最大15%の曲線通過速度向上が見込まれていた。SBBはFV-Dostoを導入することで、スピードアップに向けた主要幹線の曲線改良工事を最小限に抑えられると考え、全ての編成が出揃った後には、主要幹線の所要時間短縮も検討していた。
しかし、この新技術は走行中に異常な揺れや振動が発生するなど、乗り心地に大きな問題が生じることが判明。修正を試みるも改善の兆しはなく、SBBは2022年7月にWAKOの導入を断念する声明を発表した。同社は、こうしたニッチな技術は構造が複雑で故障しやすく維持コストも増えるため、導入は現実的でないという点を断念した理由の1つとして挙げている。
その後、契約相手だったボンバルディアはアルストムへ吸収合併され消滅、FV-Dostoの契約はアルストムが引き継ぐことになった。今回の補償についてもアルストムが交渉相手となり、最終的な合意に至った。
10年以上費やした計画「断念」の背景
インフラ改良を伴うことなく、主要都市間の時間短縮を目論んでいたSBBであったが、WAKO技術導入を断念したことで計画を大幅に変更せざるを得なくなった。
当初、2035年以降に予定していたダイヤでは、FV-DostoのWAKO技術が稼働することを前提とした時刻を検討してきたが、計画が頓挫したことで、現在は別の方法で時間短縮が可能かどうかの検討に入った。長期的には、ローザンヌ―ベルン間に97kmの新線を建設することが検討されているほか、ヴィンタートゥール―ザンクト・マルグレーテン間にも新線の建設が提案されている。
それにしてもなぜ、10年以上にわたって進められてきた計画が日の目を見ることなく断念され、白紙から見直しという状況に至ったのか。筆者はその大元に、2月24日付記事(「『日立製車両』が欧州鉄道界進出に成功した背景」)で触れた「メーカー主導」と「他国企業の参入」が絡んでいると考える。
かつて欧州の鉄道車両は、各国に存在した地元鉄道メーカーがその国の実情に合った車両を国鉄(鉄道会社)と共同開発して造り上げていた。一つひとつの車両に費やす労力も資金も多く、失敗がなかったわけではないものの、昨今のように多くはなかった。鉄道会社とメーカーが手を組んで開発するため、そもそも契約する前に入念な研究と試験を行っており、十分に実用化が可能と判断されて初めて契約に至るケースが多かったからだ。
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