東レ、刷新とは程遠い13年ぶり社長交代の深層 若返りは進まず、経営体制を維持したままに

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この数年は不正問題や業績停滞に直面する東レだが、ポジティブに評価できる面もある。環境への貢献だ。現中計でも、環境関連の製品の売り上げ収益や、二酸化炭素の削減貢献量、水処理の貢献量といったサステナビリティの目標は、すべてクリアする見通しだ。

2023年3月期には、省エネルギーや新エネルギー、水処理など環境関連の売り上げが3年前の1・4倍の1兆円に到達し、全社の4割を占めることになりそうだ。相対的に見ても、「東レの規模で、これだけ割合が高い企業はあまりない。環境貢献は先進的だ」(澤砥氏)。

社長交代と併せて発表した2024年3月期から3年間の新中計では、このサステナビリティを一層進展させる。東レは、環境貢献の関連事業に、健康医療関連の事業を合わせた事業を新たにサステナビリティイノベーション事業と定義。2026年3月期には、同事業の売上高を2023年3月期比で23%増の1.6兆円に伸ばす目標を掲げる。

ESGの“E”は好成績だが

環境貢献は近年、ESG投資が拡大しているように、企業の市場評価に直結する重要な意味を持つ。Eは環境貢献、Sは社会貢献、Gはガバナンスを指すが、東レの環境貢献への評価は機関投資家から「◎」がもらえそうだ。

だが、東レのガバナンスへの評価は極めて低そうだ。上述の通り不正問題の連発だけなく、今回、経営陣が事実上、刷新していないこともマイナスに働くとみられる。

東レの株価は、2017年の秋冬ごろには1100円前後をつけていたが、新型コロナウイルスの影響で苦しんだ2020年には400~500円台に低迷していた。足元では炭素繊維事業の復調などにより、700円台半ばまで戻してきている。課題のガバナンスの評価さえ大きく改善すれば、環境貢献の一層の拡大と合わせて市場評価の上昇に弾みがつくかもしれない。ただ、今回の人事を見る限りは当面、そうした期待を持つことは難しそうだ。

2023年6月の株主総会では、新社長になる大矢氏はもちろん、会長になっても代表取締役に留まる日覺氏も再び信任投票の対象になる。実質的な経営体制は大きく変わらないともいえる中で、両氏の取締役再任案への賛成率は果たしてどうなるか。近く、市場からの審判が下される。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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