東レ、刷新とは程遠い13年ぶり社長交代の深層 若返りは進まず、経営体制を維持したままに
それだけに、その後も別の不正と隠蔽が続いていたことは、世間に大きな衝撃を与えた。それにもかかわらず、東レが設けた有識者調査委員会は経営陣の責任を十分に追及せず、日覺社長が引責辞任することはなかった。
これに対し、市場からの目は非常に厳しい。2022年6月23日の株主総会で、日覺氏の取締役選任案に対する賛成比率は63.67%と異例の低水準だった。12人いる東レの取締役のうち10人は80%超の賛成比率で、日覺氏への不信任が目立った。
このように、機関投資家を含む株主からは、社長交代を求める「外圧」が非常に強まっていたといえる。そこで、日覺氏は最側近の大矢氏に社長の座は譲る形をとりつつ、代表権は返上せずに会長に留まり、批判をかわしながら経営体制をほぼ維持することを図る――。今回の人事からは、そんな思惑が透けて見える。
営業のスペシャリストを自認
新社長の人選は適切なのか。そこには、合理的といえる部分と、疑問が残る部分の双方がある。
大矢氏は、営業のスペシャリストを自認し、「コアバリューの研究、技術、開発を点ではなく面積に拡大すべく、ブランドマーケティング力を駆使したい。素材の多さではウチは圧倒的に強い。営業によって、事業収益は格段に拡大できる」と意気込みを語る。
実際、モノを売る力は東レにとって、これから重要性がかなり増していきそうだ。
SBI証券シニアアナリストの澤砥正美氏は、「東レが力を入れ、一層の拡大を目指す環境貢献の製品である分野、炭素繊維、水素関連部材、リサイクル関連の成長には、技術力だけでなく営業力も大事になる。新しく開発するものを、これから新しいマーケットに売っていく必要があるからだ」と指摘する。大矢氏が繊維の営業で培ってきたブランドマーケティング力が市場開拓に生かされていくとみて、業績面では一定の評価や期待を寄せる。
一方で、懸念もある。大矢氏は、6月末の株主総会後の社長就任時には67歳になる。日覺氏より6歳半若いが、日覺氏も2010年に新社長に就任した時の年齢はまだ61歳だった。その意味では若返りにはなっておらず、旧来の体質が続く印象を市場に持たれかねない。
また、大矢氏も、不正問題とは決して無縁ではない。2020年6月から副社長の座にあり、その前の4年間は専務取締役を務めてきた。社長を補佐して幅広く管理・監督を行う、責任の重い立場だ。そのためか、昨年6月の株主総会の大矢氏の取締役選任案への賛成率は72.89%で、日覺氏の次に低かった。
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