「1円スマホ」にメス?変わらぬ携帯販売の異常体質 「安売り依存」のキャリアは当局に規制を要求

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2020~2021年には、楽天モバイルが本格参入したり、大手3社も低廉な新料金プランを相次ぎ投入したりした。さらに、いわゆる「2年縛り」などの期間拘束を事実上封じた法改正などを受け、キャリア各社が通信プランの契約期間の縛りや契約期間中の解約金を2022年までに撤廃し、ユーザーが別の会社へ乗り換えるコストが安くなった。

結果として、直近のMNP利用件数は過去最多水準で推移し、「取られたら取り返す」という熾烈なユーザー獲得競争が展開されている。

成績の悪い代理店によっては、自腹を切ってでも独自に割引額を積み増し、MNPを1契約でも多く獲得する必要がある。代理店が大幅な値引きを余儀なくされる状況をキャリアが作り出しているため、「独占禁止法上の優越的地位の濫用に当たり、問題となる恐れがある」(公取委の担当者)。

MNPの利用件数推移

過剰な安値合戦は、「転売ヤー」と呼ばれる業者をも呼び寄せた。格安に売られるスマホを転売目的で入手し、短期解約するなどして中古ショップなどで売りさばく。組織的に展開し、回線獲得に結びつかない転売ヤーは、キャリア側にとっても利益を圧迫する悩ましい存在となりつつある。

歪んだ販売構造による弊害が顕在化してきた局面にあっても、キャリアの自浄作用は望み薄だ。

最大手のNTTドコモは、2022年11月に開かれた総務省の会議の場で、端末単体の割引について「競争対抗の観点で、キャリア主導で取りやめることは困難」だと断言。さらには「過度な端末割引が生じないよう、業界一律でルール化(規律見直し)を要望する」と主張した。

安売り依存から抜け出せない体質となったキャリアの限界を自ら認め、当局に“助け”を求めた格好だ。

過度な割引上限は5G普及の足かせに?

となると、今後は総務省がどう制度設計をするかが焦点となる。1円スマホの抜け道となった端末単体の割引規制に踏み込むことは規定路線とみられるが、難しいのは、割引上限額の設定だ。

調査会社のMMD研究所が2022年8月に実施した調査によると、日本で5G対応端末を持つ人の割合は34.5%。アメリカ(61.9%)や中国(71.7%)を大きく下回る。

円安や物価高などの影響でスマホ価格が高騰し、買い替え需要が伸び悩んでいる。一方で対応端末が広く流通しない限り、5Gならではのサービスも普及しない。割引上限を厳しく設定した結果、5G端末の普及がさらに遅れれば、5Gを商機として国内外で稼ごうとする国内勢の芽を摘むことになりかねない。

事業者側でも、割引規制をめぐっては「上限価格は撤廃すべき」(アップル・ジャパン)、「当該端末の中古買い取り価格を値引き上限とすべき」(ソフトバンク)などと意見が分かれる。通信行政に詳しい野村総合研究所の北俊一パートナーは、「5G端末普及を図るため、端末単体も規制対象に入れたうえで、割引上限を最大4万円程度に増額してはどうか」と提言する。

業界の透明性を高めるうえでは、代理店の評価指標のあり方などをめぐる論点も残る。いびつな安値販売を撲滅し、いたちごっこに終止符を打つ道のりはまだ険しそうだ。

高野 馨太 東洋経済 記者

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たかの けいた / Keita Takano

東京都羽村市生まれ。早稲田大学法学部卒。在学中に中国・上海の復旦大学に留学。日本経済新聞社を経て2021年に東洋経済新報社入社。担当業界は通信、ITなど。中国、農業、食品分野に関心。趣味は魚釣りと飲み歩き。

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