魚を獲るのがうまくなりすぎて魚を獲れない皮肉 「プラネットアース」制作者が人類に鳴らす警鐘

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陸上では、連鎖の数がわずか3つのこともある。草、ヌー、ライオンというようにだ。海では、ふつう4つや5つ、もしくはそれ以上の連鎖がある。

微小な植物プランクトンが、肉眼でかろうじて見える程度の大きさの動物プランクトンに食べられ、動物プランクトンが稚魚に食べられ、稚魚が小さい魚に食べられ、小さい魚が大きい魚に食べられる。

この長い食物連鎖は、自立しており、自己制御されている。

中型魚が1種でも人間によって食べ尽くされ、海から消えたら、その魚より食物連鎖の下位にいる生物は過剰に増え、上位にいる生物は自分ではプランクトンを食べられないので、餓死する。

ホットスポットでの、絶妙なバランスの取れた束の間の生命のほとばしりも、起こりにくくなる。海の表面付近の栄養物は沈んで、下層の暗闇へどんどん落ち、そこにとどまってしまう。

これは最終的には何千年も続いてきた表層の生物群を大きく損ねずにおかない。ホットスポットが減り始めれば、外洋は死に始める。

今の海には昔ほど魚がいない

実際、時間の経過とともに、わたしたちは人口の増加に対処するため、ますます魚を取る能力を高めていかなくてはならなかった。年々、養わなくてはならない人間の数が増えているだけでなく、海で取れる魚の数が減っている。

19世紀や20世紀初頭、つまりわたしたちの祖父とか曽祖父とかぐらいの時代の記録や報告にある海ですら、もう今の海と同じ海とは思えない。例えば、ある古い写真には、腿までサケの山に埋まった漁師の姿が写っている。

ニューイングランドでは、魚の大群が浜辺のすぐ近くまで押し寄せてきたことから、地元の人々が食事用のフォークを片手に海にばしゃばしゃと入っていき、魚を捕まえたことがあったという。

スコットランドのカレイ漁では、400本の釣り針がついた綱を海に投げ込むと、当たり前のようにその針のほとんど全部にカレイがかかっていた。

わたしたちのそれほど遠くない先祖たちが使っていた漁の道具には、釣り針や綿製の網より高度なものはなかった。今のわたしたちは、先祖が見たら仰天しそうなハイテク技術を駆使していながら、食用になる魚を取るのに苦労している。

今の海には昔ほど魚がいない。

(翻訳:黒輪篤嗣)

デイヴィッド・アッテンボロー 自然史ドキュメンタリー制作者

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David Attenborough

英国を代表する自然史ドキュメンタリーの制作者。BBCの画期的なシリーズを世に送り出し、世界的な自然史ドキュメンタリーの作り手として確固たる名声を博した。代表作に《地球の生きものたち(Life on Earth)》(1979年)、《ライフ・オブ・バーズ/鳥の世界(The Life of Birds)》(1998年)、《ブルー・プラネット(The Blue Planet)》(2001年)、《アッテンボローのほ乳類 大自然の物語(The Life of Mammals)》(2002年)、《プラネットアース(Planet Earth)》(2006年)などがある。

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