「規制当局を含めて、われわれは金利リスクの怖さを忘れてしまっていた」。ある金融関係者は反省の弁を述べる。
3月10日に経営破綻したアメリカ中堅のシリコンバレー銀行(SVB)。彼らの資産の過半を占めていたのは長期の米国債やMBS(不動産担保証券)だ。これらは債務不履行のリスクが非常に低く、とりわけ米国債は政府・中央銀行が紙幣を刷って償還できるため、「リスクフリー」とも称されてきた。
このようにピカピカの超優良資産を抱えていたのに、なぜSVBで預金取り付け騒ぎが起き、あっという間に破綻してしまったのか。
忘れられていた金利リスクの衝撃
金融機関には、債務不履行にかかわる信用リスクのほかに金利リスクがある。国債やMBSは満期まで保有すれば、元本はほぼ確実に回収できる。だが、満期までの間に金利上昇(価格は下落)が起きれば、債券の含み損が生じてしまう。
昨年からのインフレ退治を目的としたFRB(アメリカ連邦準備理事会)の利上げは急激だった。それに伴い、長期金利(10年国債)も従前の1%台から4%弱まで急騰。金利上昇に対する価格下落の度合いは、債券残存期間に比例して大きくなるが、SVBが8日に発表した現金確保のための売買目的有価証券の実現損では、価格は8.6%下落していた。より長期のもので構成されていると見られる満期保有目的有価証券では軽く10%以上の価格下落になっていた可能性が高い。
もちろん、これらも満期保有すれば問題なかったが、信用不安の高まりからベンチャー企業からの取り付け騒ぎに発展し、目論見は崩れた。仮に現金確保のため、満期保有目的有価証券の売却まで手をつけていれば、より巨額の実現損により自己資本は大きく毀損されただろう。そうなる前にカリフォルニア州当局はSVBの事業停止を決めた。
超優良資産であっても急に「不良債権」に変わってしまう金利上昇の怖さ。長らく続いた低金利環境の中で忘れ去られていた、この金利リスクが突如、火を噴いた。
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