それだけではない。シリコンバレー銀行は「イノベーション経済の金融パートナー」を自負する存在だっただけに、破綻の影響はとりわけ不安視されている。カリフォルニア州サンタクララを本拠とする1983年創立のシリコンバレー銀行は、テック業界と深く結びついている。同銀行のウェブサイトによると、ベンチャーキャピタルが出資するアメリカのテック企業や生命科学企業の約半数にサービスを提供している。
シリコンバレー銀行は、ライトスピード、ベインキャピタル、インサイト・パートナーズなど、2500社を超すベンチャーキャピタルの取引銀行でもあった。多くのテック企業幹部の個人資産も管理し、シリコンバレーのテック系イベント、パーティー、ディナー、メディアの熱心なスポンサーにもなっていた。
ベンチャーキャピタル企業DCVCの投資家マット・オッコは、シリコンバレー銀行は「システム上、重要な金融機関」であり、そのサービスは「スタートアップ企業に大きな力を与える」ものだったと話した。
預金凍結で取引先の事業も凍る
連邦預金保険公社(FDIC)は10日、シリコンバレー銀行の顧客預金1750億ドルを管理下に置いた。25万ドルまでの預金はFDICによって保護される。ただ、それ以上の情報はこの段階では知らされておらず、顧客がいつ口座にアクセスできるようになるのかはわからなかった。
そのため、顧客の多くが窮地に陥った。ストリーミングテレビ会社のRoku(ロク)は10日、同社が保有する19億ドルの現金のうち、およそ4億8700万ドルがシリコンバレー銀行で凍結状態にあることを提出書類で開示。預金の大部分は保険対象外であり、「どの程度」回収できるかはわからないと述べた。
職場の安全性を分析するスタートアップ企業コンプサイエンスの最高経営責任者(CEO)ジョシュ・バトラーは、シリコンバレー銀行が破綻する前日の9日には預金が引き出せなくなっていたと話した。神経をすり減らす1日だったという。
バトラーが続ける。「投資家や従業員から自分の母親に至るまで、誰もがどうなっているのか聞くために連絡してくる。誰もが知りたがっているのは、どれだけ早く残りの資金にアクセスできるようになるのか、アクセスできたとして、いったいどれだけの資金が回収できるのか、ということだ。本当に恐ろしいことが起こっている」。