旭化成「巨額減損で最終赤字」でも前向きな理由 車載電池用セパレーターで誤算も明るい兆し

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これに伴ってポリポア単独での資産評価をしたことで、巨額減損は発生した。つまり見方によっては追い風が吹く状況が、「減損発生で最終赤字」という結果に繋がったともいえる。

減損はあくまでも会計ルール上に基づく評価上のものであり、キャッシュアウトは伴わない。来年度以降の会計上の償却費を「先払い」したとも捉えられる。これまでは年間で約150億円ののれん償却費が営業損益を押し下げてきたが、来年度からはその重石も消える。

まだ「投資失敗」ではない

乾式セパレーター自体も、まだまだ捨てたものではない。乾式はESS(電力貯蔵システム)向けでは相性がいいが、「再生可能エネルギーを貯める大容量バッテリーが出れば、ESS向けの需要は確実に伸びる」(SBI証券の澤砥正美シニアアナリスト)とみられている。長い目で見れば持ち直す可能性はあり、直ちに「投資失敗」と決まったわけではない。

旭化成の工藤幸四郎社長は、湿式セパレーターでアメリカに進出する方針を明らかにし「必ず勝てる」と自信を見せた(写真:旭化成)

旭化成にとっては、巨額減損で最終赤字になったことより、中国勢との厳しい競争の中で、「湿式セパレーターは勝算あり」という状況に至ったことのほうが、よほど重要だろう。

湿式セパレーターのアメリカ進出には巨額の投資が必要になり、リスクもある。例えば、IRA法では、アメリカ以外で生産した電池部品や材料も、税額控除の対象に認められる可能性が残されている。もしもそうなれば、競合がもっと生産コストを安くできる生産地を選んで量産工場を建てるかもしれない。

また、「アメリカ進出の戦略自体は評価できるが、本当に同じ競争条件ならばコスト競争力で中国メーカーに勝てるかどうかは、まだ不透明なのではないか」(澤砥氏)という心配の声もあがっている。

旭化成が2015年の買収で読み誤ったように、これからも電動車関連の市場では、先が見通しづらい状況は続いていく。ただ、それでも勝負をかけるときにはかけなければいけないのも確かだ。IRA法の追い風をこれから上昇気流にできるかどうかは、旭化成の今後の成長を大きく左右することになる。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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