旭化成「巨額減損で最終赤字」でも前向きな理由 車載電池用セパレーターで誤算も明るい兆し
一方、乾式はコスト重視のリン酸鉄系に主に採用され、バスやトラックなど大型の商用車に多く使われているものの、EV市場の成長を十分に享受できてはいない。最近では一部の低価格帯のEVの乗用車向けにもリン酸鉄系が使われてはいるものの、そこでは安い中国メーカーの乾式の製品が圧倒的に強い。
こうした今のEV向けリチウムイオン電池需要の状況を、旭化成はポリポア買収時の7年前には読み切れなかった。減損損失の発表に合わせて開いた説明会で、旭化成の工藤幸四郎社長は「市場が不透明な中、想定していた見立てとはずいぶん違う結果になった」と語った。
ただ、今回のタイミングで巨額減損が発生することになった背景にあるのは、乾式の低迷だけではない。むしろ、旭化成が展開するもう一方の湿式に、少し前までは思いもよらなかった「追い風」が吹いていることが、大きなトリガーになっている。
それは、昨年8月にアメリカで成立したインフレ抑制法(IRA法)だ。これにより、ユーザーがEVを購入する際に受けられる税額控除の額が、電池部品や原材料のアメリカでの調達比率に応じて決まるようになる。旭化成はこのIRA法で、自社の競争力が高まるとみている。
旭化成にとって、湿式でも手強い相手はやはり、上海エナジーをはじめとする中国メーカーだ。中国の政策もあり、国や自治体から巨額の補助金をたっぷり受けて自国内で設備投資を進め、生産力を急拡大してきた。人件費も安く、製造コストを低く抑えられている。
だが、IRA法により、中国メーカーもアメリカ市場のEV向けでは「中国で生産した製造原価の安いセパレーターを輸出する」という手が事実上、使えなくなる。そこで上海エナジーは、アメリカに湿式のセパレーターの量産工場を建てることを計画している。
同じ条件のアメリカでの製造なら
IRA法が起こした環境変化に、工藤社長は「旭化成には40年の経験を通じて蓄積した生産技術がある。中国メーカーも同じ競争条件になるアメリカ(での製造)においては、当社の本質的な生産性の高さがコスト面で他社への優位性になる」と自信を見せる。
旭化成はIRA法をチャンスとみて、アメリカに湿式セパレーターの量産工場を建てる考えも明らかにした。2023年度中の早い段階で意思決定をしたいという。
旭化成はこれまで、湿式セパレーターと、ポリポアが持つ乾式などのセパレーターを1つの事業(グループ)として扱ってきた。だが、以上のように湿式と乾式で明暗が分かれていることから今回、グルーピング(グループ単位で資産価値を評価する方法)を解くことに決めた。
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