子どもが否定されたと感じる「一発アウト」の言葉 「聞いてあげている」つもりでも口を挟んでいる

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この練習は、認知能力のレベルにかかわらず、感情のコントロールの苦手な人全般に応用できます。そもそも、感情のコントロールは大人にとっても容易なことではなく、賢い人のなかにも怒りっぽかったり、すぐに泣き出したり、機嫌が悪くなったりするなど、苦手な人はいくらでもいます。

安楽死を幇助していた医者の「苦悩」

養老:私も若いころは感情のコントロールが苦手でした。人の感情がわからないこともありました。それではいけないと、大人になってから勉強したと言いますか、努めて相手の気持ちを考えるようにしたんです。

でもやりすぎたのか、逆に相手のことを過度に考えるようになってしまいました。それはそれで良くない。人間関係で一番重要と言ってもいい、相手とうまく距離を取ることができなかったのです。

私が臨床医になりそびれたのも、そこら辺に問題があったからかもしれません。本当は精神科に進みたかったんですが、患者さんと親しくなりすぎちゃう、なつかれちゃうところがあって、向いていないとあきらめました。

それに患者さんに感情移入しすぎると、死なれたときに大変につらい。苦しい。極端な話、自分が殺したような痛みすら覚えます。結局、解剖医になったので、私の診る人はすでに亡くなった方ばかり。そこからおつき合いが始まるわけで、相手が何も反応しない分、安心して向き合うことができたような気がします。

ところが、私は患者さんが自然死を迎えるだけでもつらいのに、世の中には安楽死の幇助をする医師もいます。私は長年、そうした医師はどんな気持ちで安楽死に向き合っているのか、疑問に思っていました。それでオランダで安楽死に取り組む医師の書いた本を読み、何度か対談もさせていただいたんです。でも10年後、オランダまで訪ねていったら、「もう安楽死の幇助はやっていない」と言っていました。

彼は自分が見送った患者さんのことを丁寧に記録するうちに、だんだんと記憶が重いものになり、耐えきれなくなったのでしょう。あくまでも「幇助」とはいえ、殺したことに対する罪悪感は拭えないですよ。

宮口:私は少年院で、殺人を犯した少年とも接していました。なかには「あいつが悪いんや。だから僕も刺したんや」と事の重大さをわかっていない少年もいましたが、でも軽度の知的障害とか境界域の子どもたちだったら、さすがにかなり反省しますね。

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