アメリカvs中国の「覇権争い」、その恐るべき未来 国内分断のアメリカ、国家主導の限界も見える中国

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しかしながら中国スタイルのイノベーション創発には限界が見えてきたと私は感じる。その原因は大別して2つある。

1つは、国家主導の限界。もう1つは海外人材の枯渇や海外のイノベーション創発ネットワークとの断絶、である。

国家が最大の投資家である中国

中国では国家、国有企業と国からの助成金が研究開発資金の元手である。中国のスタートアップ投資は国家が最大の投資家であり、全体の30%以上を占めている。

しかも、習近平氏がテック企業をコントロールする意図を明確にしてから、2019年第1四半期から2022年同期にかけて、民間のベンチャーキャピタル投資は11%縮小した。一方でアメリカでは同じ期間で民間のベンチャーキャピタル投資は70%も伸びた。

そもそも、アメリカの研究開発費は、民間企業が約60%、ベンチャーキャピタルが約20%、財団や慈善団体、大学などが5%以上と、多様性がある。しかも中国の基礎研究への支出は研究開発投資全体の約6%で、アメリカの17%と比べると、3分の1程度となっている。

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国家に将来のイノベーション創発の目利きができるであろうか? 2022年10月に開催された第20回中国共産党大会を見る限り、習近平氏による独裁色はさらに高まり、習氏を喜ばせる、彼が好むような投資ばかり起こり、その結果は公表されない可能性がある。何が起こるかわからないイノベーション創発で、国家主導が続き、それが増えるとしたら危険な兆候だ。

人類史で最長の高度経済成長を達成し、人類史上最大の規模の国民を貧困から脱出させた点は中国に私はリスペクトを持つが、今後は高齢化や人口減少や地球温暖化や深刻な負債問題などが中国経済を襲ってくる。あまりに西側と分断された経済運営を行うと、中国がそれらの課題を解決することが難しくなり、逆に西側の経済も巻き込んで世界的な経済の難局を作り出してしまうかもしれない。西側が行ったような経済改革をやっていかないと中国は「中進国の罠」にはまり、2060年代までアメリカ経済を抜けなくなるとも言われる。中国が自国の未来に悲観的になればなるほどプーチン氏のような恐怖と名誉を焦っての暴挙に出てしまう可能性もある。ここは要注意だ。

米中対立は激しさを増すが、結論から言えば、現時点では、中国が台湾を武力で統合するために軍事侵攻を開始する可能性は低いと見る。もちろん、過去の偉大な政治家が言うように、重大なイベントほど、「未来には、今予想しなかったことしか起きない」ので、今のところ確率は低いとはいえ、本当に何が起こるかはわからないのだ。

田村 耕太郎 国立シンガポール大学リークワンユー公共政策大学院兼任教授、2024年一橋大学ビジネススクール客員教授

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たむら こうたろう / Kotaro Tamura

早稲田大学卒業後、慶応大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院各修了。オックスフォード大学AMおよび東京大学EMP修了。ランド研究所研究員、新聞社社長を経て、2002年から2010年まで参議院議員。第1次安倍政権で内閣府大臣政務官。

2014年より、国立シンガポール大学リークワンユー公共政策大学院で「アジア地政学プログラム」を運営し、20期にわたり500名を超えるビジネスリーダーが修了。2022年よりアメリカ・サンディエゴでアメリカ地政学プログラム開催。

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