「タイタニック」25年後の今でも全然色褪せない訳 ジャック? ローズ? 本当の主人公は誰なのか

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当初の脚本では、捨てようとするローズのもとに、ロベットやローズの孫のリジーなどが駆けつけ、ローズを思いとどまらせようとする筋書きになっており、いったんはブルーダイヤモンドに触れたロベットだが、ローズの意志を尊重し諦める。そしてローズはジャックが眠る深海へと「碧洋のハート(ブルーダイヤモンド)」を投げ捨てるのだ。

吹っ切れたロベットはローズの孫リジーをダンスに誘うというオチがついていて、まるで新たなロマンスが始まるかのようなシーンが当初の構想だった。

正直、そのほうが物語の構造としてはよくできている。現代に生きる(現代的な価値観を持った)ロベットが、ローズから当時の話を聞いて、大切なものに気づく。そういう形で現在と過去の話が結ばれ、未来とつながっていくお手本のような構成だ。

実際そのシナリオどおりのシーンも撮影され、未公開シーンとして公開されているわけだが、ではなぜジェームズ・キャメロンは脚本を変更してまでラストを変えたのか?

その未公開シーンを見るとわかるが、当初の脚本も素晴らしいラストを描いている。だが、やはりローズ1人っきりで、誰にも知られずに「碧洋のハート(ブルーダイヤモンド)」を投げ捨てるシーンは理屈を越えて感動的だ。

皆に囲まれる中でダイヤを投げ捨てるよりも、ひっそりとジャックとローズの話が完結するほうが美しいと判断したのではないか。

それを裏付けるかのように、劇中の現代ローズのセリフに次のようなものがある。

「今までジャックのことは誰にも話さなかった、主人にも。女は海のように秘密を秘めているの。彼が、私を救ってくれた、あらゆる意味で。写真も残っていない。でも、彼は私の心の中に生き続けているわ」

一貫して海というモチーフを描き続けているジェームズ・キャメロンが、肝心のテーマ的解決を海深く沈めたのは、なんとも味わい深いと思うのは私だけだろうか。

『タイタニック』はローズの終活の物語

『タイタニック』はローズを主体とした物語と考えると、いろいろな点が符号してくる。

自分だけが生き残り、ジャックとの約束を守るように、自分らしく自由に生きてきたローズ(その象徴が乗馬の写真)の人生とはいかなるものだったのか。

その答えは、彼女が調査船にも持ち込んだ多くの写真からも読み取れる。彼女が肌身離さずたくさんの写真を持ち歩いていたのは、決して自己陶酔的な女優上がりだったからではなく、たった3日間しか共にしていないジャックとの思い出を大切に生き続けていたからだった。

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