徳川家康20歳、三河一向一揆での「冷酷処分」の怖さ 「三大危機」のうちの1つをどう乗り切ったのか

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寺院は以前と同じにようにする――。そう言って、すべてを水に流すかに見えた家康だったが、和議に至ると態度を一変。一揆を引き起こした本證寺、上宮寺、勝鬘寺の「三河三ヶ寺」と土呂本宗寺は、家康から改宗を迫られた。もし、拒否すると寺内を破壊され、坊主たちは追放されたというから、まったく「以前と同じように」ではない。

これには寺院側も驚き、家康に書いてもらった起請文を持ち出して「以前と同じようにするとの約束ではないですか!」と抗議した。つまり、これまでのように守護不入の特権は保証すると約束したはずと寺院側は訴えたのだ。

だが、家康はこう言い放ち、堂塔の破壊にとりかかったという(『三河物語』)。

「以前は野原だったのだったから、もとのように野原にせよ」

一揆側についた者もすべて許したわけではない

また家康は「一揆側についた者も許す」という約束についても、必ずしも守ったわけではない。松平家次や渡辺守綱、渡辺直綱らはゆるされたものの、本多正信や渡辺秀綱、鳥居忠広らの家臣や、松平昌久(大草松平家)は追放されている。考えをしっかり改めた者には温情をかけるが、そうでない者には断固たる処置をとる。そんな家康の意志の強さが打ち出されたといえよう。

また、家康にとって今回の騒動は、宗教勢力の脅威を肌で感じた経験でもあった。これ以後の三河では、20年にわたって本願寺教団の活動が禁じられている。

三河一向一揆をなんとか乗り越えた家康。三河を平定したのちは、信長との同盟を守りながら、その突破力を名立たる戦国大名たち相手に発揮することとなる。

【参考文献】
大久保彦左衛門、小林賢章訳『現代語訳 三河物語』(ちくま学芸文庫)
宇野鎭夫訳『松平氏由緒書 : 松平太郎左衛門家口伝』(松平親氏公顕彰会)
平野明夫『三河松平一族』(新人物往来社)
所理喜夫『徳川将軍権力の構造』(吉川弘文館)
本多隆成『定本 徳川家康』(吉川弘文館)
柴裕之『青年家康 松平元康の実像』(角川選書)
二木謙一『徳川家康』(ちくま新書)
日本史史料研究会監修、平野明夫編『家康研究の最前線』(歴史新書y)
菊地浩之『徳川家臣団の謎』(角川選書)
大石泰史『今川氏滅亡』(角川選書)

真山 知幸 著述家

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まやま ともゆき / Tomoyuki Mayama

1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年独立。偉人や歴史、名言などをテーマに執筆活動を行う。『ざんねんな偉人伝』シリーズ、『偉人名言迷言事典』など著作40冊以上。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義(現・グローバルキャリア講義)、宮崎大学公開講座などでの講師活動やメディア出演も行う。最新刊は 『偉人メシ伝』 『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』 『日本史の13人の怖いお母さん』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』(実務教育出版)。「東洋経済オンラインアワード2021」でニューウェーブ賞を受賞。

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