日本人は低い食料自給率の深刻さをわかってない 製造業輸出を優先した結果、食品安全保障は脆弱

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日本の農業政策を一言で言えば、「零細兼業農家維持政策」と呼ばれる。その結果、1960年にはGDPの9%あった農業が、現在では0.97%(2016年国民経済計算、内閣府より)しか残っていない。2018年に終了した減反政策に代表されるようにコメの価格を守るために、政府はありとあらゆる補助金をばらまいて、他の産業であれば独禁法違反となるカルテルを組んで、「JA農協」の意思に沿った政策を繰り返してきたと指摘されている。

例えば、現在でもコメを守るために、年間約3500億円の補助金が使われており、これまで総額9兆円のお金をばらまいて日本の農業を守ってきたと報道されている。「(農業)政策の二転、三転が不必要な過剰予算を招いた」とも指摘されている(「コメ『必要ない予算』温存」日本経済新聞2022年7月2日朝刊)。

有事にはコメを食えと言うけれども…

さて、実際に台湾有事のような状態になり、世界中で食料品の争奪戦が起こったら、どうなるのだろうか。前出の「知ってる?日本の食料事情2022」のなかでも、「輸出国もいざという時は自国内の供給を優先」と指摘している。

とりわけ、小麦、トウモロコシ、大豆は主要生産国が世界全体の8~9割を独占しており、リスクが高いことを指摘している。なかでも、大豆はアメリカとブラジルの2カ国で90%以上を占めており、この両国を巻き込んだ有事の際には、世界的に大豆不足になることが予想されている。

日本が世界中を巻き込んだ食料争奪戦に巻き込まれたとき、日本国民は何を食べればいいのか。農水省のシミュレーションによると、カロリーの高い焼き芋や粉吹き芋などのイモ類を主食にするように推奨しているが、太平洋戦争の戦中戦後の飢餓状態の時には、イモを主食にしてもなお国民は飢えていた。

日本は、長い間、食糧安保という意味もあるとして、稲作農家を守り続けてきた。政府の備蓄米は、現在でも100万トン程度を維持している。民間在庫約270万トンと合わせて370万トンある勘定になる(農林水産省、2020年発表)。同様に、食料用小麦は外国産食料用小麦として2~3カ月程度、家畜のえさとなる飼料用トウモロコシも100万トン程度備蓄している。

余っているとさんざん言われてきたコメを食べればいいのではないか……、と思いがちだが、実はそう簡単なことではないようだ。たとえば終戦時、コメの1人1日あたりの配給米は2合3勺だった。1億2500万人に2合3勺を配るとすれば1400万~1500万トン(15歳未満は半分と仮定)が必要になる。

しかし、減反政策によって今の生産量700万トンでは、国民の半分以上が餓死する計算だ。(キャノングローバル戦略研究所 研究主幹・山下一仁「食糧危機から見る日本農業の現状と課題~ウクライナ・マリウポリの教訓~」(グローバルエコノミー2022.08.15)より)

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