日本人は低い食料自給率の深刻さをわかってない 製造業輸出を優先した結果、食品安全保障は脆弱
国際的に見ても、日本の農業の衰退がわかる。日本の1人当たりの農地と比べると、ドイツやイタリアは6倍、イギリスは8倍、フランス13倍、アメリカ35倍、カナダ46倍、オーストラリアに至っては438倍もある。日本は国土の7割を森林に覆われているが、農業政策を大きく変更させずに森林を大きく破壊するような大規模な農地開発を避けてきた。日本国民は食料自給率の向上よりも森林などの豊かな自然を守ることを選択してきたともいえる。
② 貿易立国の維持のため製造業を優先し農業を犠牲にした?
日本の食料自給率が上昇しないもう1つの原因が、日本とアメリカの関係にあることもよく知られた事実だ。岸信介政権が1960年に結んだ「新日米安全保障条約」で結ばれた経済協力条項によって、日本は自動車や電化製品などの製造業に特化した貿易立国へと経済成長を遂げていく。しかし、その反面でアメリカを中心とする海外からの食料品輸入に頼る構造へと変革していく。
1990年代に入ると、牛肉やミカンの輸入を段階的に自由化し、その見返りとして日米貿易摩擦などを解消して貿易立国としての地位を確たるものにしていく。
日本はアメリカの「食の傘」の下にいる?
こうした状態を、日本はアメリカの「食の傘」の下にいると表現され、日本はアメリカの「食料植民地」と指摘する報道もある(東洋経済オンライン、「日本の食料自給率向上を『米国が絶対許許さない』訳」、2022年5月31日より)。
最近になって注目されている「生乳廃棄」の原因も、「カレントアクセス(現行輸入機会)」と呼ばれるガット・ウルグアイラウンドの農業合意に基づいて、輸入する必要がないのに大量の乳製品を輸入し続けているからだと指摘されている。
日本は海外のバターや脱脂粉乳を一定額輸入するように国際的に約束しており、国内の生産者を犠牲にして生乳換算で13.7万トンの乳製品を輸入し続けている。一方で、この約束を厳格に守っているのは日本だけだという指摘もある。日本の農業行政は国内の産業保護よりも、国際的な世間体を優先しているわけだ。
③ 後手に回わる政府の農業政策
こうしたケースに代表されるように、日本の農業政策はこれまで後手に回ってきた。日本の農業政策の最大の特徴は、コメを守るために減反政策などさまざまな補助金を出し続けてきたことだ。とりわけ、減反政策は日本の農業の近代化を著しく阻んでしまった。
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