日本人は低い食料自給率の深刻さをわかってない 製造業輸出を優先した結果、食品安全保障は脆弱

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縮小

岸田政権は、盛んにロシア・ウクライナ戦争から学んだこととして防衛費増強の必要性を叫んでいるが、日本がもっと先に手を付けなければいけないのは、食料自給率の向上ではないのかと思う。

例えば「台湾有事」が起きて、中国が世界的な経済制裁を受けたとしたら、日本は工業製品の面でも食料品においても大きな打撃を受ける可能性が高い。最近になって、アメリカのCIA =中央情報局のバーンズ長官が、中国の習近平国家主席が2027年までに台湾侵攻の準備を行うように指示した、と述べたとする報道が流れた。

これが本当にそうなるかはわからない。ただ、2027年と言えば4年後だ。中国からの食料品輸入が全面的にストップする事態を日本政府は想定しているのだろうか。

日本の主要農産物の国別輸入割合を見てみると、農産物の輸入額は7兆0388億円(2021年、農林水産省「農林水産物輸出入概況」より)。そのうちの23%(同)がアメリカ、第2位が中国の10%(同)となっている。つまり輸入する農産物全体の10%が完全に止まってしまう可能性があるということだ。

さらに中国との貿易がストップした場合、最も被害が大きいのは「肥料」だ。日本は食糧生産に不可欠な肥料の多くを中国から輸入しており、食料生産の生命線となる。たとえば、「尿素」は37%(農林水産省「肥料をめぐる情勢」、2022年4月より)、「リン酸」(同)に至っては90%を中国から輸入している。肥料の3大要素のうちの2つを中国に依存しているのが実態だ。

農地や農業従事者が減っている

日本の食料自給率はなぜ一向に上昇しないのか。背景には何があるのだろうか。さまざまな情報をまとめると、次のような理由が考えられる。

① 農業生産基盤の衰退

少子高齢化の推進や、地方の過疎化などの原因によって、日本の農地面積は減少する一方だ。2021年の「農林水産省 耕地及び作付面積統計」によると、日本の農地面積はこの55年の間に大きく減少している。

<農地面積>
・1965年……600.4万ヘクタール(畑:261.4万ヘクタール、水田:339.1万ヘクタール)
・2021年……434.9万ヘクタール(畑:198.3万ヘクタール、水田:236.6万ヘクタール)
<農業従事者>
・1965年……894万人
・2021年……130万人

注目したいのは、やはり6分の1に減少した農業従事者の数だろう。ちなみに、その平均年齢も2021年現在67.9歳と高齢化が進んでいる。要するに、農業生産体制を支える農業生産基盤の衰退が、現在のような低い食料自給率をもたらしている。

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