「ルフィ事件」はフィリピンの現地でどう見えるか 犯罪とともにメディアスクラムを輸出した日本

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日本とフィリピンの間で犯罪者引き渡し条約は結ばれていない。このため容疑者を送還するには、案件ごとに個別の処理が必要だ。一般的に大使館経由の外交ルートで要請する形をとるが、在フィリピン日本大使館の場合、警察庁から出向している書記官(アタッシェ)が主に対応にあたる。

フィリピンで日本の警察は、キャリア組を含め3人ほどを大使館に出向させているほか、国際協力機構(JICA)の専門家の肩書などでフィリピン国家警察や国家捜査局などに複数の警察官を派遣している。送還手続きだけでなく、日本人がらみの事件があれば、こうした警察出向者らが対応にあたっている。世界中の日本の在外公館の中で、警察出身者が最も手厚く配置されているのはフィリピンだ。

フィリピンに手厚い日本警察

それは、日本人がらみの事件が多いためだ、外務省の海外邦人援護統計によると、フィリピン大使館の擁護件数は2020年、2021年と世界最多だった。過去もほとんどの年で首位。殺人件数は最も多い。

犯罪捜査はすぐれて国家主権にかかわる活動なので、警察のアタッシェは決して表に出ないよう心掛けているが、私が新聞記者時代に取材した事件では、日本の警察出向官がときにフィリピン警察を動かし、事実上の捜査を仕切っていると感じることさえあった。

フィリピンでは通常行われていない指紋採取なども指導し、日本人絡みの事件となれば採取用の粉末なども提供していた。フィリピン側捜査車両のガソリン代を負担することもあると聞いた。

1986年に起きた三井物産マニラ支店長誘拐事件では、別の事件で出張中の大阪府警の捜査員が現地で関係者から事情聴取して調書を巻いていた。

強制送還の段取りでも中心となるのは、大使館の警察アタッシェだ。彼らが日ごろからどれだけ現地の警察や司法当局に食い込み、パイプを築いているかが1つのポイントとなる。

送還対象者が地元で刑事事件の容疑者や被告となった場合は、確かに一筋縄ではいかない。それでも今回のように警察のみならず日本政府の総意として働きかければ話は格段に速く進む。

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