「ルフィ事件」はフィリピンの現地でどう見えるか 犯罪とともにメディアスクラムを輸出した日本

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フィリピン側がまいたタネもあるが、文化や背景を無視した日本の報道が一方的なレッテル貼りにつながっている面も無視できない。

「闇」が指摘される入管や刑務所などの収容施設だが、フィリピンでは容疑者や囚人であっても家族との面会やスマホを通じた会話を絶つのは非人道的といった感覚がある。法を犯したものに「自由を与えることなどとんでもない」と日本人の多くは思うだろうが、フィリピン人は必ずしもそうは考えない。文化の違いである。

振り返って日本の入管はどうなのか。フィリピンの入管施設で日本人が病気になって助けを求めたら、職員らはおそらく見殺しにはしない。一方、スリランカ人女性が健康悪化を訴えながら病院に搬送されることもなく亡くなった名古屋入管の例を、フィリピン人が聞いたら絶句するだろう。

送還をめぐり警視庁は、記者クラブにレクを繰り返していた。報道各社は送還日時や航空便の予定を警察から教えてもらい、容疑者らと同じ便に「箱乗り」するが、警察側の指示に従って容疑者に声掛けすることもない。

メディアスクラムの異様な光景

同乗して得られる情報は機内食の中身ぐらいだ。到着後はヘリコプターを飛ばして容疑者の乗る車両を追いかける。強制送還の取材に7チームを出して取材にあったテレビ局もあった。

こうした多大の金と人手をかける意味がどれほどあるのか。「ルフィ」強盗事件、「悪党の天国」にしたのは誰かという前回の記事で、「『犯罪の輸出』をしているのはほかならぬ日本である。実は、『悪党の輸出大国ニッポン』」なのだ」と書いた。

もう1つ、日本が輸出したものがある。他国でほとん見られない「メディアスクラム」である。「箱乗り」をはじめこれほど大挙して報道陣が同一の行動をとる国はまれだろう。「事件や事故の際に見られる集中豪雨型の集団的過熱取材」(日本新聞協会)の異様な風景が、現地の人々の目にどのように映っているか、想像力を働かせてほしい。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「ルポ フィリピンの民主主義―ピープルパワー革命からの40年」、「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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