ダイキン、パナの「暖房」が救うエネルギー危機 「省エネ」ヒートポンプが欧州で爆売れ、増産も

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それがコロナ禍をきっかけに環境は一変した。コロナ復興基金を充てるグリーンディール政策の下でEU(欧州連合)各国は購入支援策を打ち出している。フランスでは、ボイラー式からヒートポンプ式への更新で費用総額の最大7割を税還付。イタリアでは100%を税控除する。

さらに需要を後押ししているのが、ウクライナ危機を受けた光熱費の暴騰だ。国や製品性能によって差はあるが、「ヒートポンプ式の場合はボイラー式と比べて2割弱の光熱費節約になるという試算もある」(ダイキン)。ロシア産ガスに頼らない暖房として、2021年に約60万台だった設備台数は、2022年に4〜5割伸びた。

ダイキンのヒートポンプ式暖房設備
ダイキンの商品「アルテルマ」。大規模な内装工事が不要でボイラー式暖房からの切り替えが容易(写真:ダイキン工業提供)

この需要は、単なるバブルではなさそうだ。現在、ヨーロッパの住宅におけるヒートポンプ導入率は6%程度だが、欧州委員会は2022年5月の「リパワーEU計画」で建物の省エネ促進を提言し、導入割合を今後5年で倍増させると発表しているのだ。

ダイキンは生産能力を4倍に

こうした動きを受けて、メーカーは投資合戦を繰り広げる。ダイキンは「2035年には販売されるほぼすべての家庭用暖房がヒートポンプに置き換わる」(ダイキンヨーロッパの亀川隆行副社長)との見立てから、約420億円をかけて初のヒートポンプ専用工場をポーランドに建設し、2024年7月に稼働を開始する。既存の3工場も増強し、生産能力を全体で4倍に引き上げる。 

シェア上位につけるパナソニックも、2025年度までに約500億円を投じ、その枠内(約300億円)でチェコ、マレーシア工場を増強。チェコ工場では、テレビを製造していたラインを切り替えた。「狙える市場は大きい。追加投資を含めて、機動的に検討していく」(パナソニック空質空調社の道浦正治社長)。日系メーカーに負けじと、ヨーロッパや中韓メーカーも次々に投資計画を打ち出している。

ヨーロッパ以外でも、オーストラリアやアメリカは今後有望な市場になりそうだ。世界のCO2排出量のうち、建物はその3割を占める。家庭の省エネの切り札として、日本発の製品の躍進が期待される。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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