巨匠パク・チャヌク「別れる決心」で深化した真相 ミステリアスな愛の在り様を描いた「大人の映画」

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樋口:ところで、中国と韓国と日本は、国の名前こそ変わっても兄弟だと僕は思っています。ときに互いに刺激し合い切磋琢磨してきましたが、血が近い故に争った悲しい時代もありました。 パク監督は、日本の漫画が原作の『オールド・ボーイ』、日本統治時代の朝鮮を舞台にした『お嬢さん』、中国のタン・ウェイさんを交えての本作、そして韓国と北朝鮮の分断を描いた『JSA』を含め、映画を通じてこれらの国との架け橋を作ってこられたように見えます。実際にはどのような思いがありますか?

パク:そうですね。歴史上、お互いに傷つけ合った記憶は残っていますが、アジアの人たちは互いに近くで生きていかなければならない運命を持っています。だからいつまでも憎しみ合ったり、嫉妬し合ったりして生きていくべきではないと考えています。

樋口:本当に同感です。

パク:政府がいかに愚かな判断を下そうとも、国民1人1人が互いに友人になれるように努力を続けていくべきです。映画だけを見ても、例えばヨーロッパでは60年代から俳優や監督が行ったり来たりしながら 色々な国で合作を作っていますし、様々な国の資本が混ざり合って作品が作られていますよね。アジアもそのようになったらいいなと思っています。そういった意味で、是枝裕和監督がソン・ガンホさんを主演にして映画を作った(『ベイビー・ブローカー』/2022年)ことは非常に美しいことだったと思います。 

(写真/トヨダリョウ)

樋口:確かにこれまでは、特に日韓で積極的に合作が作られるケースは多くありませんでした。

パク:国民性など様々な違いは当然あると思いますが、その違いからお互いを憎しみあったり、軽蔑したりするのは愚かなことです。賢明で賢い人は、その違いから学んだり、その違いを通して視野を広げたりできるのだと思います。

樋口:本当にその通りだと思います。最後に少し砕けた話もさせてください。今作『別れる決心』の中で、へジュンの妻ジョンアンは夜の夫婦生活のルーティーンを頑なに順守しようとする妻という設定がありました。それに必死に応えようとするへジュンとの関係はなかなか興味深いものですが、パク監督は、夫婦生活よりもプラトニックラブの方が尊いと思う時がありますか?

パク:アハハ(笑)。私にそのような考えはないし、それを表現したくて映画を作ったわけでもありません。へジュン、ソレ、ジョンアンという3人がそれぞれ独立した個人として、本当に生きている人のように考えることで、色々な関係性や感情が可能になるのではないかと思いました。 何に価値があるとか、何が間違えているとか、そういったことで私自身の思いを伝えようとしたわけではありません。

樋口:失礼な質問をすみませんでした。今日はありがとうございました。お会いできて光栄でした。

パク:ありがとうございます。私もお話できて楽しかったです。 

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