巨匠パク・チャヌク「別れる決心」で深化した真相 ミステリアスな愛の在り様を描いた「大人の映画」

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樋口:刺激を求め続けているんですね。

パク:そうですね。少なくとも映画作りでは自分ができないことをやろうとしています。先ほども言った通り私自身は趣味がなくて、旅行も運動もクルマの運転もしません。だから映画作りというクリエイティブな作業の中で何かをしないと、新しいことがない人生になってしまうのです(笑)。

樋口:僕もプライベートでは音楽を聞くか、映画を見るぐらいしかないので、仕事以外に趣味がないという気持ちは本当によくわかります。

パク:交際範囲もそんなに広くないので、人と会う機会もそこまで多くはないですし。

樋口:では登場人物や主人公には、代替行為というか、自分ができないことをやらせようという思いもあるのでしょうか。

パク:そういう時もあります。今作のヘジュンは料理が上手いキャラクターなのですが、自分は苦手なのでやらせてみようと思いました(笑)。

3部作を計画していると、勢いで出任せを言ってしまった

樋口:私がパク監督の作品の中で最も偏愛しているのは、『復讐者に憐れみを』、『オールド・ボーイ』、『親切なクムジャさん』といういわゆる“復讐3部作”です。いま振り返るとこの3部作はパク監督にとってどんな意味があったのでしょう?

パク:今では“復讐3部作”と呼ばれていますが、最初からそのような計画だったわけではないのです。3作の中で最初に作ったのが『復讐者に憐れみを』ですが、その前に『JSA』という作品で南北の分断の問題を扱ったので、次は韓国内における階級の問題を扱う番だなと思っていました。

樋口:なるほど。

パク:それで、じゃあ何を作ろうかと考えていた時に、プロデューサーが『オールド・ボーイ』という日本の漫画を持ってきたのです。それが思いのほか面白かったので深く考えずに「やろう」と受け入れました。そうしたら制作前の発表会見で、記者が「なぜまた復讐を扱うのか?」と質問をしてきたんです。それで私は「復讐は人間の運命であり、永遠のテーマなのに、扱うのはおかしいことですか? 僕は3部作を計画していますよ」と、勢いで出任せを言ってしまったんです(笑)。 

(写真/トヨダリョウ)

樋口:そうだったんですね。予定もなかったのに(笑)。

パク:はい。あと、出任せを言ったのにはもう1つの動機があって、『復讐者に憐れみを』は興行的にそれほど成功していなかったので、3部作だと言えば1作目となる『復讐者に憐れみを』や、まだ制作していない3つ目の作品に対しても人々が興味を持ってくれると思ったのです。

樋口:興行的な思いがあったんですね。そして3作目として作ったのが『親切なクムジャさん』だった。

パク:そうです。その目的は達成されて、『オールド・ボーイ』は興行的にうまくいきましたし、『復讐者に憐れみを』も遡って見てもらえるようになりました。

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