トヨタ社長交代後「水素」が重責を担う確かな予感 燃料電池車だけでなく多様な活用が想定される

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水素エンジンについては未だに懐疑的な声も少なくない。しかしながらトヨタは市販を前提に開発を進めている。2022年11月の時点でのGRカンパニーのプレジデントとしての佐藤氏の見解は「現在は4合目から5合目に差し掛かるくらい」だったが、現在主軸としている気体水素だけでなく、液体水素も含めて、開発はあくまで市販を見据えて行われている。実際、トヨタではすでに量産開発専任のチームが立ち上がっているという。

当面、主軸となるのはおそらく乗用車やスポーツカーなどではなく、すでに試作車の開発が行われている商用車、特に大型トラックなどになるだろう。もちろんFCEVにしたほうが特に低負荷域での効率に優れるのだが、水素エンジンなら現在搭載しているエンジンを改造することで、買い替えや載せ替えよりもコストを大幅に低減できる。無論、FCEV商用車も同時に開発を進めつつ、それだけではなく「プラクティカルなCO2低減」を訴えるトヨタとして、実現可能性のより高いと思われる道も、同時に探っているわけだ。

後を継ぐ佐藤新社長への期待

そうやって水素がより多く使われるようになれば、作るコストは下がり、運ぶためのインフラの整備も進む。MIRAIはじめFCEVは目論見どおりには普及していないのが現状だが、現在はこうして地道にタネを蒔き直している段階と言っていい。

おそらく今後も、この水素を取り巻く環境づくりにおいては、スーパー耐久シリーズ参戦中の水素カローラを旗印に、そのドライバー、モリゾウとして豊田社長はますます求心力を発揮していくことになるだろう。その意味でも、内山田氏から会長を継承するというのは、まさにジャストなタイミングだったと言うべきかもしれない。

水素エンジンを積んだGRカローラ
今シーズン、水素カローラは出力が7%、トルクで5%、航続距離は15%のアップ。昨年のデビュー戦と比較すると出力は24%、航続距離は30%向上したという(撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY/トヨタグローバルニュースルーム)

そして、あるいは佐藤新社長はクルマづくりはもちろん、まさに期待されているモビリティカンパニーへの変身という部分で、この水素をより活かしてくれるのではないかと期待したい。それは自動車以外の活用についても考慮した、社会全体での水素の利活用に対する新たなビジョンを示すのはもちろん、初代MIRAIとテスラ モデルSの間にあったギャップのようなものを埋めることのできるトヨタへの脱皮という意味合いでもある。あるいは、それはレクサスに託す役割かもしれないと思うのだが……?

クルマとして性能が良いのはもちろん、次代のモビリティとしての新しい魅力を備えること。あるいは、それはもはやクルマに付随する何かではなく、ソフトウェアによるサービスだったりするのかもしれないが、とにかくクルマ屋のスピリットを忘れることなく、しかし従来のクルマ屋には無かった発想で挑む。それこそが豊田氏が今、佐藤氏に社長を託した理由のはずである。

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島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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