トヨタ社長交代後「水素」が重責を担う確かな予感 燃料電池車だけでなく多様な活用が想定される
それでもトヨタはMIRAIを一般販売した。ホンダが結局、FCEVの「クラリティ」をリースのみに留めたのとは対照的である。単に作ってみたのではなく、しっかり世の中に訴求する。その思いがあったからこそ、MIRAIはのちにフルモデルチェンジで2代目へと進化することにもなるのだ。
実は初代MIRAIがデビューするより少し前に、豊田社長の水素エネルギーに対する思いをちらりと耳にする機会があった。詳細は控えるが、要するに資源を持たず、地震や津波の起こる日本で、クルマを動かしていくためのエネルギーはどうあるべきかという話である。
それが脳裏にずっとあったから、筆者はMIRAIの購入を即決して4年とちょっとの間、愛用した。前述の通りクルマ自体には言いたいこともあったが、それでもFCEVに乗っているという満足感、あるいは誇りはそれを凌駕するものだったと、振り返って思う。
クルマ好きを奮い立たせる水素エンジン
そして水素と言えば、話題は今や水素エンジンである。2021年6月の富士24時間レースに出場して見事に完走。しかもドライバーとしてモリゾウこと豊田社長自らが乗り込んで、その性能、信頼性、安全性を世界にアピールしたのは痛快な出来事だった。これならカーボンニュートラルの時代にも、内燃エンジンのサウンドや吹き上がりを楽しむことができる、またレース業界は今持っているノウハウを今後も活かし続けることができるというメッセージは、クルマ好きを大いに奮い立たせたのである。
しかも、その後もスーパー耐久シリーズに参戦を続けて技術に磨きをかけ、水素エンジンはどんどん性能を向上させていった。しかも水素を「つかう」という領域に留まらず、「つくる」「はこぶ」ことにも留意。サプライヤー、パーツメーカー、地方自治体、エネルギー産業……と、さまざまな仲間を引き込み、その輪をさらに大きなものに育てている。目線の先にあるのは、もはや「トヨタ」だけでなく「日本」、そして「世界」「地球」なのかもしれない。
実際、筆者は現地には赴くことができなかったが、2022年8月にはベルギーで開催されたWRC(世界ラリー選手権)の会場でも、この水素エンジンを搭載したGRヤリスを走行させている。これは自動車メーカーが急進的なBEVシフトを宣言するも、必ずしもユーザーがついてきていないヨーロッパで、大きなアピールとなったに違いない。
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