谷川浩司「藤井聡太の"圧倒的強さ"に思うこと」 十七世名人が語る「強さの根源と自身との違い」

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谷川はこれまでにタイトル戦に57回出場し、獲得数は歴代5位の27期になる。通算勝利数は史上3位の1373勝(2023年2月8日現在)。それでも「自らの時代を築けなかった」との思いが強い。歴代の覇者である大山康晴十五世名人、中原、羽生にあって、谷川になかったものとはなにか。

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「私は勝負というところで甘さがあったのかもしれません。やや淡白なところが……。本当の第一人者というのは、ここぞという勝負に強さがある。中原先生との3度の名人戦で、23歳のときに敗れたのは、まだ自分が成長途上で弱かったから。

そして26歳のときに奪い返して、その2年後に再び中原先生が挑戦者になってこられた。この勝負には勝たねばならなかった。私は28歳で、棋士としても本当に充実していたときですし、一時代を築かれた中原先生といえども15歳の年齢差がありましたから……」

谷川が感情を露わにすることは少ないが、このときは言葉に忸怩たる思いが滲んだ。防衛していれば名人5期となり、永世名人の資格を得るはずだった。だが谷川は敗れ、以降は羽生世代とのタイトル争いが激しくなっていく。十七世名人有資格者となったのは7年後だった。

藤井聡太は、なぜ強いのか

では谷川がこれまで対戦してきた棋士の中で、最も勝負への執着が強いと感じたのは誰だろうか?

「やっぱり大山先生ではないでしょうか。先生の頃は“勝負”という面がかなり強かった。自分の時代を続けるためには、1つ下の世代に勝ち続け、最初に苦手意識を植え付けるようなこともあったと思います」

では羽生はどうだったのだろうか。

「羽生さんも七冠を目指していた頃は、苦しい将棋も逆転勝ちしなければならなかったので、勝負にこだわっていた感じがありました。でもそれ以降は相手との対戦を楽しんでいたような。羽生さんが30歳前後、私が30代後半の頃は特にそんな印象でした」

藤井竜王は負けを自覚したときには全身で悔しさを表す。トップ棋士を相手に8割以上の勝率を残すには、勝つことへのこだわりが一際強いように思える。しかし谷川の見解は少し違う。そしてそこに、藤井の“強さの根源”があるように感じた。

「藤井さんは勝負への執念という意味では、それほど強いとは感じませんね。彼は棋士になったときから一貫して勝つことよりも強くなること、“将棋の真理”を追求することを言っています。ガックリした姿は、自分が思い描いた将棋が指せなかったことへの反省ではないでしょうか。

もう1つは、あれだけ勝ち続けているから勝ち負けを意識しないという見方もあるかもしれない。まあ彼の場合は、もっと超越したところにいるのかもしれませんが」

野澤 亘伸 カメラマン/『師弟~棋士たち魂の伝承』著者

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のざわ ひろのぶ / Hironobu Nozawa

1968年栃木県生まれ。上智大学法学部法律学校卒業。1993年より写真週刊誌『FLASH』の専属カメラマンとして活動を開始。主に事件報道、スポーツ、芸能などを取材、撮影。同誌の年間スクープ賞を3度受賞。フリーとしてタレント写真集や雑誌表紙を多数撮影。小学生の頃からの将棋ファンで、著書『師弟 棋士たち魂の伝承』(2018年、光文社)と『少年時代に交わした二つの約束』(2019年、将棋世界)で第31回将棋ペンクラブ大賞を受賞した。ほかに海外取材をまとめた『この世界を知るための大事な質問』(2020年、宝島社)などがある。

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