谷川浩司「藤井聡太の"圧倒的強さ"に思うこと」 十七世名人が語る「強さの根源と自身との違い」

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昨年3月、藤井聡太竜王がA級昇級を決めたとき、谷川の記録を更新する可能性が高まった。ともに19歳でのA級昇級だが、生まれ月の関係で藤井のほうが約3カ月半若い。もちろん1年間にわたるリーグ戦を勝ち抜くのは容易ではないが、現在最終戦を前にして6勝2敗で首位タイにつけている。

谷川浩司十七世名人
谷川浩司(たにがわ・こうじ)
十七世名人。1962年、兵庫県神戸市生まれ。5歳で将棋を覚え、11歳で若松政和七段に入門、14歳で四段となりプロ入り。19歳でA級昇格。21歳で最年少名人となる。1992年に史上4人目の四冠王となり、1997年には羽生善治名人を4勝2敗で破り、2度目の復位、通算5期で十七世名人(永世名人)の資格を取得。2002年7月、公式戦通算1000勝達成。公式タイトル獲得27期、一般棋戦優勝22回。2012年12月〜2017年1月まで、日本将棋連盟会長。2014年、紫綬褒章受章。著書に『常識外の一手』(新潮新書)、『光速の寄せ』シリーズ(マイナビ出版)、『中学生棋士』(角川新書)、『藤井聡太論 将棋の未来』(講談社+α新書)などがある(筆者撮影)

現在の名人である渡辺明は、中学生で棋士となり、20歳で竜王を獲得した。その才能は多くの棋士が認めるところであり、これまで藤井を相手に苦戦しているが、このまま易々と軍門に下るとは思えない。秘策を練ってくることが期待される。ただ、それでも追い風が新しいスターへと吹くのを感じざるを得ない。

40年前の谷川もそうだった。

「私の場合、A級での中原先生とのプレーオフ、そして加藤一二三先生との名人戦にしても、自分が実力的に劣っていたのですけども、新しい人を待望する世論に後押しされたところが大きかったと思います。

正直、藤井さんがA級に入った頃は、更新の可能性があることに少し複雑な気持ちでした。でも今は、彼は将棋界を背負っていると言っても過言ではない存在です。実績、実力の両方を持っている。もし、そういう人に記録を破られるのであれば、それは光栄なことではないかと思うようになりました」

棋士の現役は長い。現在も10代から60代までが同じ土俵で戦っているが、AIを使った将棋ソフトでの研究が進んで以降、それらを駆使して鍛錬を重ねる若手にベテランが苦戦することも顕著になった。

「将棋の場合、はっきりと結果が出ますからね。圧倒的な強さを持った後輩が出てきたときには、これはもう受け入れるしかない。先日の王将戦第2局の立ち会い人を務めたときに、羽生さんが藤井さんにとても敬意を持っているのを感じました。感想戦での言葉遣いもすごく丁寧でした。年齢に関係なく、実力に敬意を表すということになりますかね。やっぱりいくつになっても学ぶ気持ちは大切だと思います」

AIの出現、最初はショックだった

藤井は20歳で五冠を達成した。中原は30歳、羽生が23歳でそれを達成しており、谷川は29歳で四冠になったが、それらに比べてもかなり早い。この若さでここまで強くなれた要因は、AIでの研究以外にも考えられるだろうか。

「私たちの時代は、奨励会に入ったときから将棋は自分の力で強くなるしかなかった。でも今はAIがあって、プロになってからもそれぞれ専属コーチがついているようなものです。10代という大事な時期に強くなる環境が整っている。

ただ、藤井さんの強さはそれだけでなく、結論が出ないところで考えることですね。直感で3通りくらいの手が浮かぶ局面で、どれも98点以上あるときに、果たして1時間以上も考えられるのか。そうでない人が多いと思う。

でも藤井さんは、そこで勝負が決まるわけでなくても考える。考えたけれども、結果的に指さなかったという手も、財産として蓄積されていく。彼は2日制のタイトル戦など時間の長い将棋を戦うことで、より多く考え、さらに強くなっていくと思います」

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