住宅ローン金利「引き上げ」に金融機関のためらい 日本銀行のサプライズ利上げの影響は限定的?

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ある金融機関の住宅ローン担当者は、こうこぼす。「金融機関は金利を下げて消費者を奪い合っており、まさに泥仕合だ。現在のネット銀行などの住宅ローン金利は変動で0.4%台が多く、その水準を超えるとまったく勝負にならない。メガバンクも個別対応では優良顧客に対してローン金利を大きく下げており、競合他社の住宅ローンの金利動向が読みづらい」。

住信SBIネット銀行のモーゲージプラットフォーム事業部・江口真広副部長も「日本の賃金水準が変わらなければ、金利を上げるのは難しい」という前提を置いたうえで同様の指摘をする。「住宅ローン金利の引き下げ競争が激しい中、他行の動向次第では、仮に短期金利が上昇しても、その全てを住宅ローン金利に反映できない可能性がある。住宅ローン金利を上げると新規申込み件数の減少や、他行の住宅ローンへの借り換え増加が懸念される」。

金融機関は保険サービスや独自サービスの提供による差別化を急いでいる。auじぶん銀行の亀屋氏は「当行は団体信用生命保険の『がん100%保障団信』・『11疾病保障団信』を申し込んだ場合に上乗せされる金利を2022年5月に引き下げた。また、ライフネット生命と業務提携しており、金利以外の保険サービスも今後拡充していくつもりだ」と語る。

今後も金利の「引き下げ競争」は続く

住宅ローンを他のポイントサービスと連携して打ち出す金融機関もある。住信SBIネット銀行では、住宅ローンを借りた消費者にJALのマイレージを付与するサービスも提供している。「通常のウェブ申込みの住宅ローンと比較して契約率が2倍程度高い」(住信SBIネット銀行のモーゲージプラットフォーム事業部・古田篤司担当部長)。

だが、そうしたサービス面での差別化は道半ばで、あくまでも金利水準の増減が顧客争奪戦の勝敗を分けるポイントになっている。「住宅ローンの変動金利で0.28%を提示する金融機関もある。競合と差別化するため金融機関は保険サービスを充実させているが、今後2年程度は金利引き下げ競争が続きそうだ」と、iYellの窪田CEOは指摘する。

2023年4月には日銀総裁が交代する。それに伴い、異次元緩和の修正が予想されている。「2023年後半にアメリカの過度なインフレが落ち着き金利が下がると同時に日本経済の回復が進めば、日銀がイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を撤廃する可能性もある」と、MFSの塩澤COOは語る。

不動産投資ローンなどを展開するオリックス銀行の塩貝明大執行役員は、「2022年12月の日銀の政策変更を受け、金融緩和の解除が現実味を帯びてきた。この先、0.2~0.3%程度の短期金利の上昇は想定する必要がある」と話す。

金融緩和政策は遅かれ早かれ、いずれは終わりを迎える。そのタイミングがいつになるのか、金融機関関係者は日銀の動向に神経を尖らせる。

佃 陸生 東洋経済 記者

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つくだ りくお / Rikuo Tsukuda

不動産業界担当。オフィスビル、マンションなどの住宅、商業施設、物流施設などを取材。REIT、再開発、CRE、データセンターにも関心。慶応義塾大学大学院法学研究科(政治学専攻)修了。2019年東洋経済新報社入社。過去に物流業界などを担当。

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