その言葉に着替えを持って、お風呂に行こうとすると背中に怒号が飛んできた。
「しばらく帰ってくるなよ!」
あやみは部屋を出た途端、涙があふれてきた。廊下で人とすれ違うかもしれない。何とか涙を堪えようと下唇を噛んでいたら、噛みすぎて出血をした。慌ててそれを持っていたタオルで拭った。
「そのとき、私1人で帰ってきてしまえばよかったんですよね。でも、恐怖にがんじがらめにされていると正常な判断ができない。嫌なのに従ってしまう。最悪の1泊2日の旅行でした。今冷静になって考えてみると、人格否定されるような言葉を浴びせられているうちに、だんだんと“悪いのは自分。怒らせないようにしないと”って、催眠術にかかったように彼のモラハラ発言に従っていたんですね。相手の機嫌を伺うようになっていました」
その旅行を終えて、あやみはよしはるのことを母親に相談した。すると、母親が言った。
「どんなに経歴が良くて、お金をいっぱい稼いできてくれても、家の中で威張っていて、その顔色を見ながら暮らしていくのは大変よ。お父さんは普通の稼ぎの平凡な人だけれど、声を荒げて怒ったりしないでしょ。あなたは、そういう環境で育ってきたのだから、その男性とは、合わないと思うわ」
母の言葉に、やっとよしはると別れる決心がついた。
多くの女性たちが、経歴や年収の良い男性が好きだ。そうした男性である程度のコミュ力があると、女性にはモテる。男性が10歳も20歳も上だったりすると話は別だが、年齢が近くてスペック良い男性からアタックをされて、嫌な気持ちになる女性はいないだろう。
ただ、それを自覚している男性の中には、浮気性だったり、自分に従属させようとモラハラ気質になったりする人がいることも否めない。
あやみは、私に言った。「そんな男性に振り回わされたことを反省して、次の相手は、とにかく人柄重視で選ぼうと思ったんですね」。
公務員のあやみは給料も安定している。男性が普通に稼いでいれば、2人で力を合わせてお金に困ることなく暮らしていける。そう考えたようだ。
女の稼ぎを当てにする男
よしはるとの恋愛が終わった後、友達がやっていた婚活アプリに登録をしてみた。そこで、何人かの男性とメッセージをやり取りし、会ったりもしたのだが、大抵の男性が、初めての食事でホテルに誘ってきたという。
「友達のなかには、相手がタイプだと一晩だけの恋愛を逆に楽しんでいる人もいましたが、私は、将来的に結婚を見据えた恋愛がしたかったので、最初の食事でホテルに誘ってくるような男性は、除外していました」
ところが、同い年のあきら(仮名)は違っていた。最初から見栄を張ることもなく、初めてのデートは食事をして、最寄駅で別れた。その後、4回目のデートで「正式に付き合ってほしい」と言われた。デート費用は割り勘だったが、かえってそのほうが気楽だった。
言葉を荒げたこともないし、上から目線の発言もない。メールの返信が多少遅くなっても何も文句を言わなかったし、あやみを束縛するような発言もなかった。
「こんな人と結婚できたら楽かもしれない」。結婚への決定打はなかったが、“彼でいいかな”と思うようになっていった。
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