しかし、仕事が始まってみると、覚えなくてはならないことも多く、しばらくは恋愛どころではなかった。また役所の人たちは結婚が早く、30歳前には世帯を持つ人たちがほとんど。そんななかずっと独身でいるのは、人付き合いが苦手な人だったり、性格が頑固な人だったりするので、付き合う対象にはならなかった。
仕事に慣れてからは、友達が企画する合コンに参加したり、紹介で男性に会ったりしていたが、LINEを交換しても、その後1~2度食事に行くと連絡を取らなくなる。そこから交際に進展していくことはほとんどなかった。
超ハイスペックなモラハラ男
そんなことが続いていたが、27歳のときに、仲良くしていた友達と一緒に、“男性が上場企業限定”という婚活パーティーに参加をした。
そこで、よしはる(当時30歳、仮名)とマッチングをした。名刺をもらったのだが、超一流企業だったので、最初は驚いた。「こんな立派な経歴の人と、私が釣り合うかしら」と最初は思ったという。
しかし、連絡先を交換してからのアタックが、かなり積極的だった。年収も、その年の男性たちと比べて破格に高い。スペックのいい男性から誘われるのは悪い気はせず、会っていくうちにどんどん彼に惹かれていった。
どこか上から目線のところがあったが、最初はそれも男らしく思えた。ところが男女の関係になってからというもの、あやみのことを次第に束縛したり、厳しいことを言ったりするようになった。
メールの返信が遅ければ、「何をしていたの? なんですぐに返信できなかったの?」と問いただしてくる。
食事に行けば、「食べる速度が速いよ。早食いは品がなく見える。育ちがわかるな」と胸にグサリとくるようなことを言う。
さらに、「結婚したら、仕事を辞めて家のことをしてほしい。僕1人の稼ぎで暮らしていけるでしょう。あやみが辞めたって、代わりはいくらでもいるんだから」と公務員の仕事をバカにしたような発言をする。
だんだんと違和感を覚えてきたものの、「結婚するには、もってこいの条件だし、100パーセント理想の人はいないのだから、私が何とか彼に合わせなきゃ」と思っていたそうだ。ただ、そのがまんも限界を迎えるときがやってきた。
初めての温泉旅行に出かけたときのこと。待ち合わせ場所でよしはるの車に乗り込むと、彼はとても不機嫌そうだった。あやみがシートベルトをしたのを確認すると、よしはるは吐き捨てるように言った。
「仕事でトラブルが起こって、今日は旅館に着いたらそれを片付けないといけなくなった。仕方なくパソコンを持ってきたよ。せっかくのんびりできると思ったのに。ったく、今のチームに仕事のできないボケが1人いるからよ〜、チッ」
よしはるがボケのところで語気を荒げ、舌打ちしたとき、あやみはドキッとした。そして、“怒らせないようにしよう”とドキドキしている自分がいることに気づいた。
「大変だね」と小さな声で言うのが精一杯だった。
部屋についても、ずっと仕事をしているよしはるに気を遣いながら、お茶を入れたり、部屋に置いてあった菓子を出したりした。するとまた、チッと舌打ちして、言った。「気が散るから、温泉でも入ってきてくれないかな」。
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