日本人は奨学金制度の「貧弱さ」をわかってない 貸与中心は世界の非常識、背後には構造的要因

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背景にあるのは、アメリカでは寄付文化が根付いていること。アメリカの高等教育費は7割くらいが奨学金や寄付で賄われています。日本では1割弱くらいなので、 規模が圧倒的に違います。そして、寄付の恩恵を受けて大学を卒業した学生たちが、社会人になってある程度の年収になったら今度は寄付する側に回るのは当たり前の感覚としてあるようです。そういった循環が脈々と続いています。

寄付に対する税制優遇もあります。細かい条件は州によって異なりますが、奨学金や特定の団体に寄付すると、かなりの割合で税額控除の対象になります。「お金を納税という形で国に払うか、自分の好きな奨学金や団体を選んでそこに寄付するか」を選べるような世界観です。そうなると自分を育ててくれた教育機関に奨学金として寄付する人も増えますよね。

このように文化・制度面でのアメリカとの違いが、給付型奨学金が増えない理由として指摘されることが多いです。そもそも、欧米では「奨学金」という言葉を使う時、学費が足りない学生を助けるのが趣旨なので、その多くが給付型奨学金です。欧米からは、日本の貸与型奨学金は「奨学金ではない」「利率が低い学生ローンのようなもの」と見えるかもしれません。

なお、ヨーロッパ、特に北欧の国々は教育が福祉の一環として受け止められており、大学の学費が無料、もしくは日本と比べて圧倒的に安いため、奨学金制度そのものがあまり必要とされていません。

特殊な制度だが、歴史的な背景が…

なぜ世界的に見ても特殊な、このような奨学金運営が日本で生まれていったか。実は、一歩踏み込むと、歴史的な背景が見えてきます。

JASSOの前々身である「財団法人大日本育英会」が発足したのは戦時中の1943年のこと。奨学金制度創設のきっかけは、教員の待遇問題でした。戦時下ということもあり、当時は軍需ブームも真っ最中で、低賃金だった教員を辞めて工場で働く人が多かったのですが、その結果、師範学校の入学希望者が激減。これは戦争中の国家としては、由々しき事態でした。このような背景のなか、教員の待遇改善の動きが活発化し、その流れの中で教育体制そのものの改善を目指す流れが加速。貸与型奨学金が整備されたと言われています。

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