日本人は奨学金制度の「貧弱さ」をわかってない 貸与中心は世界の非常識、背後には構造的要因

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しかし、今の日本の奨学金市場の現状はまだまだその前段階にあるように思います。これからの奨学金や教育を充実させていくために制度や仕組みを考えていく必要がありますが、それ以前に現在ある奨学金の情報が整理されておらず、「奨学金が必要な学生が必要な情報にアクセスする」ということさえかなり難しい状況がありました。多くの学生や返済者が、決して小さくないペインを抱えていることを考慮すると、社会的な課題とさえ言えるでしょう。

そこで、私が代表を務める株式会社ガクシーでは、2019年に奨学金情報サイト「ガクシー」をスタートさせました。このサイトでは、日本国内で提供されているほとんどの奨学金情報を網羅しています。前述した通り、日本は欧米各国と比べると、奨学金の種類が少なく、また授業料の負担も大きい。東大の大学院生でも生活費に困り、アルバイトに時間を取られて研究に専念できないといった現状があるのがわが国なのです。こうした日本の将来を担う若者のペインを解決したいと思い、奨学金領域に特化した会社とサイトを始めたのです。

奨学金の「負のイメージ」が根強い現実

ただ、われわれのようなサービス提供者が情報を整理する一方で、奨学金に対する意識の改革も必要だと感じています。日本では奨学金そのもののイメージが悪いため、たとえそれが「給付型」の奨学金であっても、もらっていることを周囲に知られたくない、と考えている学生は少なくありません。また、悪いイメージは、貸与してもらう/給付してもらう以前の段階でも作用します。

「奨学金の情報を調べていることを知られたくない」と思う学生は少なからず存在しており、奨学金情報を発信している弊社のSNSも、アカウント名に「奨学金」と入っているからフォローして周りに知られるのが嫌だという話をよく聞きます。 本連載を私と一緒に担当する水戸康徳氏さんも「ツイッターのリスト機能を用いることで、フォローすることなく奨学金情報を収集している(と思われる)学生」がいることを指摘されています。これも奨学金への悪いイメージゆえの行動でしょう。

だからこそ、「貸与型奨学金を活用することは決して恥ずかしいことではない」「給付型奨学金を活用することも、学生の権利であり、栄誉である」といった思想を広めるのも大事なように思います。

悪いイメージを持たれている背景には、返せなくて自己破産する人が増えるなど社会問題として取り上げられるようになったこともあります。実際、冒頭で紹介したJASSOの給付型奨学金が始まった背景にも、この問題がありました。

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