抜群に働きがいある会社と見かけ倒しの会社の差 社会の期待に応える人間でありたいと思わせるか

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思わず笑ってしまったのだが、とはいえこれは、さまざまな状況でスケールアップするうえで大きな意味合いを持つだろう。企業からすると、規模が大きくなるにつれて従業員のモニタリング・コストは重くなる。しかし、質問票や調査を活用するだけで、ポジティブな行動を促し、(窃盗などの)望ましくない行動を減らせる可能性があるわけだ。しかも質問票や調査なら、簡単に取り入れることができる。

ビジネス以外にも当てはまる原則

一般的なインセンティブとして思いつくのは、「従業員の報酬を増やす」「昼食を無料にする」「福利厚生を充実させる」などだが、それらは企業の規模が大きくなるにつれて負担が過大になるおそれがある。

しかし社会的インセンティブの場合は、たとえ規模を拡大したとしてもずっと安上がりで済む。また、人間の心理はグループごとに大きく変わるわけではなく、たいていの人は似たり寄ったりの程度で損失を回避し、ほぼ全員が社会的イメージを気にするものでもある。そのため、このタイプのインセンティブ戦略は拡張しやすい。

だが金銭的報酬をインセンティブにする場合、必要な額は人によって大きく変わってくることになる。スケールアップで目指すものは、利益や社会的インパクト、健康、学力向上など多岐にわたるに違いないが、インセンティブの設計にあたっては、社会性と損失回避の傾向(それは人間に備わったものだ)を活用し、関係者全体にメリットをもたらす配慮が求められるのである。

重要なポイントは、こうした原則がビジネス以外の世界にもあてはまることだ。

<たとえば医師は、患者に毎日、薬の服用や運動の記録をつけさせることで、治療計画を守らせるインセンティブを付与できる。教師は生徒に学習時間や宿題を終えた時間を記録させる。(181ページより)>

もちろん、こうしたインセンティブだけがボルテージを高める唯一の方法ではなく、お金も有効ではある。ただし大規模な金銭的インセンティブは、「カネを出すから、もっと働け」という“昔ながらの陳腐なやり方”よりも、もっと創造的な形で導入することができる。

エコノミストとしての立場に基づくリスト氏のこうした主張は、非常に洗練されているといえるのではないだろうか?

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー・ジャパン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」「文春オンライン」などで連載を持つほか、「Pen」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)など著作多数。最新刊は『抗う練習』(フォレスト出版)。

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