たった1%の値引きが致命的に利益を削るワケ 代金決済の長期化にも気をつけよ

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仮に営業利益率3.4%の会社が、商品やサービスを1%値下げして販売したらどうなるか。売上高1000円に対する営業利益は24円に低下する(図表参照)。本来得られた利益を3割も落とすことになるのだ。これも逆に1%値上げできたとしたら、利益は3割積み増しできる。

筆者が会計監査や経理・財務部門のコンサルティングをしているある会社で、「大口の取引が決まりました」と意気揚々と話す営業部長がいた。その直後、経理・財務部長が来て「資金決済が5カ月後で、資金繰りが大変です。運転資金を借り入れで賄います」と話すこともあった。

このように、資金決済(売掛金回収)までの期間が長期化する場合、実質的な値引きと同じになることにも注意を払いたい。会社によっては大口取引を優遇するという理由などで、販売した商品の代金回収として翌月末に手形でもらうケースがある。手形の決済は3カ月後なので、このケースは取引の成立から決済に至るまでの期間が最長で5カ月になる。

これも仮のケースを想定してみよう。4月1日に1億円分の商品が売れ、その代金を回収するまでの運転資金として1億円の全額を借入金で賄うとする。銀行からの利子率が2.4%とすれば、5カ月間で払う利息は100万円になる。これが販売側のコストになり、実質的な値引きとなって結局は、本来得られたはずの利益を取りはぐれる。

値引き販売するのなら理由を

値引き販売がいかに利益面に悪影響を与えるかがお分かりいただけたかと思う。現実には、「将来の大口取引が見込める」「新商品のためまずは実績が欲しい」「顧客から商品のフィードバックをもらいたい」など、値引きしてでも販売せざるを得ないケースはたくさんある。よって、値引き販売が一概に悪いと筆者も思わない。購入する側に立ってみても1円でも安く買いたいだろうし、購入担当者も予算の都合がつかない場合もありうるからだ。

ただ、値下げには理由を提示したほうがいいだろう。値引きする代わりに商品の品質を落としたり、本来できるはずのサービスを一部提供をしないという手段もある。筆者の場合は、クライアント企業の値引きに応じる代わりに、「取引先実績を実名で紹介させてください」と伝えることにしている。実績が新規取引先から選ばれる理由の一つだと考えるからだ。無条件に値引きすることだけは避けたほうがいい。

  • ①1%の値下げでも、営業利益に与える影響は10%以上
  • ②売上高営業利益率が低いほど値下げは利益に与えるインパクトが大きい
  • ③代金決済はなるべく早く 

 

李 顕史 公認会計士、税理士

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公認会計士、税理士。一橋大商学部卒。2000年中央青山監査法人(現あらた監査法人)金融部入所。銀行、証券会社、割賦金融などで会計監査と内部統制業務を担当。2010年に李総合会計事務所設立。主に上場会社、金融会社の内部監査・経理・管理会計のコンサルティング業務を提供。

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