「検討おじさん」岸田氏の経済政策が空中分解の訳 ぶち上げたはいいが…新しい資本主義の現在地

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2021年12月に岸田内閣は、3~4%以上の賃上げをした企業に与えられる臨時減税の水準を2年間だけ引き上げた。しかし、こうした税制優遇措置の歴史を見ると、企業は一時的な税制優遇の見返りとして、恒久的な賃上げを認めないことがわかる。

岸田首相は、前任者と同様、賃上げを企業に要請する以上のことは何もしていない。しかし、企業は首相の要請に応じて賃上げをするわけではない。労働者の交渉力、労働市場の需給状況、あるいは規制によって、そうせざるを得なくなった場合にのみ、賃上げを行うのである。

岸田首相は自らの権力が及ぶ分野では行動を起こしているが、権力が及ばない分野では行動を起こしていない。日本の法律ではすでに、男女間、正規・非正規間の同一労働同一賃金が義務付けられている。

企業の実態調査に後ろ向きな省庁

しかし、政府のどの機関も、この法律違反を調査し、違反者を起訴することを義務づけられていない。厚生労働省の労働監督官は、企業との契約の問題だと考えており、自ら動いて調査をすることをしない。官邸筋によると、岸田首相がこの件に関して何らかの指示を出したというが、詳細は不明である。厚労省にメールで問い合わせたが、現時点で回答はなく、この件について何か具体的な行動を起こしたと思わせる形跡はない。

そのうえ、一連の判決では、企業が"合理的な差別"を行うことを認めている。その結果、企業側は正規と非正規社員間で仕事の内容を少し変えるだけで、組織的に不平等な賃金を支払うことから逃れることができるのだ。本当の意味での同一労働同一賃金に強制力を持たせるには、政府が「同一労働」に関するよりよい基準を作り、裁判所の雇用者寄りのバイアスを克服することが必要である。

岸田首相は昨年12月に、成長と分配の好循環を実現する方法について、今月中に専門家との議論を開始したいと述べた。しかし、衆議院選挙を控えた2021年10月に、このテーマについて閣僚と学者、企業ロビーや労働組合の代表など民間人15人からなるいわゆる「新しい資本主義実現会議」を立ち上げてから、すでに15カ月が経過している。

日本の問題は、岸田首相が「検討」すべきアイデアがないことではなく、首相に既得権益を踏みにじるようなことをする政治的意志がないことである。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。著書に『The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs. Corporate Giants 』(日本語翻訳版発売予定)

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